色彩
■ 27.侵入者

豪紀の元を去った青藍は、恋次と橙晴の元へ向かった。
隊士たちの指揮を執っている二人を見つけて、青藍は彼らに声を掛ける。
『恋次さーん。橙晴ー。』
青藍に気が付いて二人は目を丸くする。
そして慌てたように駈けてきた。


「兄様!?何故ここに居るのですか!?」
「お前、もう儀式始まるぞ!?」
『あはは。ちょっと耳に入れておきたいことが。・・・昨日の夜、加賀美家に脅迫状が届いたらしい。内容は僕を狙うというものだ。』
「「!?」」


『あはは。』
「・・・なるほど。だから加賀美家の方々が少しピリピリしているのですね。」
『そのようだね。恋次さんや橙晴にそれを知らせないのはことが大きくならないようにだろう。だから、これは二人だけに伝えておきます。・・・橙晴、鳴神は持ってきてあるよね?』


「はい。何かあればすぐにお渡しできます。」
『うん。まぁ、橙晴が渡せなくても黒刃と白刃のどちらかに持ってきてもらうよ。』
「解りました。」
「本当に、お前の周りって危険が一杯だな・・・。」
恋次は疲れたように言う。


『あはは。すみません。頼りにしていますよ、恋次さん。』
「はいはい。」
『ま、何かあっても会場内には僕と加賀美君を始めとした席官クラスが居ますから、何とかなると思いましょう。いや、何事もないのが一番ですけど。では、僕はもう行きます。』
青藍はそう言うと踵を返してあっという間に姿を消したのだった。


そんなこんなで時間ぎりぎりに青藍は会場に滑り込む。
白刃を介して深冬にも事情を伝えて、黒刃には睦月と師走に事情を説明してもらっている。
席に着いた青藍は会場を見渡して誰がどこに居るのか把握する。
席官クラスの死神の顔を数人見つけて、さらにある二人を見つけた。


千景先輩と薫先輩だ。
青藍が視線を送っていると、二人はそれに気が付いたようだった。
青藍が軽く目礼すると、二人は小さく頭を下げて、微笑む。
それから青藍は深冬からの視線を感じて、彼女の方を向く。


その瞳に不安が映っていて、青藍はそれを落ち着かせるように小さく微笑んだ。
それを見た深冬は小さく深呼吸をして、青藍に強い視線を送る。
それでいい。
青藍は内心でそう呟いて、小さく頷いたのだった。


開始時刻となって、舞台上に加賀美家の現当主と豪紀が姿を見せる。
表情が硬いのは、あの脅迫状のせいなんだろうな・・・。
そう思って青藍は少し申し訳なく思う。
儀式は粛々と進められ、あっという間に、豪紀が当主として承認されていく。
それを眺めつつ、青藍は考える。


何故僕への脅迫状を加賀美家に送ったのか。
僕を狙った可能性も十分ある。
だが、それならば直接朽木家に送ればいい。
それをしなかった理由とは何だ?
僕と加賀美家。
それから深冬という可能性もある。
本当の狙いは誰なのだろう。


狙いは僕だけじゃないって感じだなぁ。
なんとなくだけれど。
とすると、狙いは何だろう?
加賀美家は善良な貴族だ。
まぁ、昔はあの当主としては凡庸な当主、(いや、今は前当主だが)がやんちゃだった頃もあるようだが。


でも八重殿を娶られてからは大人しくなったらしい。
加賀美君の評判だって悪くない。
むしろ当主の中での評判は僕よりも彼の方が高い。
まぁ、それは、僕が普段適当にしているくせに、姫たちの誘いを悉く断っているからなのだが。


後は深冬と八重殿と加賀美君の弟。
そう考えて青藍は加賀美家の席をチラリと見やる。
八重殿は貴族の女性らしく邸に籠っていることが多い。
屋敷内でどんな振る舞いなのかは知らないが。
ただ、夫を尻に敷いているのは確かだ。
それに不満を持つとしたら、それは加賀美家内部の者だろう。


だが、八重殿を狙ったところでそう得になることはない。
先ほど加賀美君が加賀美家の当主となったのだから。
加賀美君の弟は・・・何だか昔の加賀美君を思い出すけど、何かする気配はないなぁ。
兄を引きずり降ろして自分が・・・という感じじゃあない。
ましてや彼を狙っても、大した利益にはならない。
人質にするとしても加賀美君が最適だもの。


そうすると、深冬ということになるけれど。
・・・それは、嫌だなぁ。
どこかで深冬の話を聞きつけたのだろうか。
知っているとしたらどこまで知っている?
霊妃との繋がりを知っている人ならば、僕まで拙い。
狙いは、僕と深冬の両方という可能性もあるのか。


それは困ったなぁ・・・。
そうこうしている間に儀式は終わりを迎える。
全ての引き継ぎを終え、豪紀が舞台から去ろうとした時、青藍は後ろの空間が割れて、何者かが現れたことを感じる。
振り向こうとするが、すでに首元に刃が向けられていた。
それに気が付いて、会場内にざわめきが奔る。

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