色彩
■ 26.脅迫状

さらに数か月が経過する。
その途中、蓮と玲奈の祝言があり、その後に朽木家で祝いの宴も開かれた。
そして季節は秋。
今日は、加賀美家の当主引き継ぎの儀である。


深冬と共に加賀美邸へ行き、席に通された青藍は内心で首を傾げる。
・・・何故、僕だけ隔離されているのだろうか。
深冬が加賀美家の面々の方に居るのは解る。
深冬は朽木家に住んでいるだけでまだ加賀美家の一員なのだから。


だがしかし、何故僕は一人だけ舞台の右手前に隔離されているのだろう。
それも一段高いところに。
これでは注目の的である。


・・・儀式が始まるまで席を外そう。
ついでにこの席の理由を加賀美君に問い質そう。
そう思って青藍は立ち上がったのだった。
それを見た深冬が首を傾げている。


青藍はそれに気付いて、こっそり護衛として連れ込んでいる黒刃に言付けを頼む。
そして念のため白刃を連れて豪紀の元へ向かった。
忙しいだろうけど、ちょっと話を聞かせてもらおう。


あの席は絶対におかしい。
そもそも加賀美家から来た案内で指定されていた席と別の場所なのだ。
何か事情があるはずである。
そう考えながら青藍は姿を隠し、霊圧をたどって勝手に邸内を進む。
そして目的の部屋を見つけるとするりと入り込んだ。


「・・・誰だ。」
気配に気が付いたのか、豪紀の鋭い声が飛んでくる。
その声に加賀美家の使用人たちの雰囲気が一変する。
『・・・やぁ。お邪魔するよ。』
青藍は両手を上げて危害を加えるつもりがないことをアピールする。
そんな青藍の顔を見て、使用人たちは慌てて頭を下げた。


「お前か。来ると思っていたが、ここに来るか・・・。勝手に人の邸を歩き回るなよ。」
そんな青藍を見て豪紀は呆れたように言う。
『堂々と会いに来られても、困るんじゃないの?僕が何をしに来たか、解っているようだ。それに、さっきの緊張感は普通じゃないね。・・・一体、何があった?』
青藍は声を潜める。


「昨日の夜、お前に脅迫状が届いた。・・・見せてやれ。」
豪紀がそう言うと使用人の一人がある紙を青藍に差し出す。
『何で僕に直接届けないかなぁ・・・。加賀美家にご迷惑がかかるじゃないの・・・。』
そんなことを言いながら青藍はそれを読む。


『何々・・・。「明日の当主引き継ぎの儀にて朽木青藍を頂く。抵抗すれば命はない。」・・・ねぇ。なるほど。だからあんなに目立つところに僕の席がある訳ね。昨日の夜にこれが来たのならば護衛を増やすのは間に合わない。だから、誰からも見える場所にしたって訳だ。』
青藍は興味なさげにその紙を使用人に返す。


「あぁ。悪いが、我慢してくれ。」
『いや、こちらこそ何か巻き込んだようですまない。』
「心当たりがあるのか?」
『正直、あり過ぎてどれだか解らない。』


「お前は一体何をしているんだよ・・・。」
『まぁ、大半の理由はこの顔にある。僕は何もしていないのに、大切な人を盗られたと、男女問わずに責められるんだよねぇ。』
「・・・やっぱりお前、存在が公害。」


『あはは。酷いなぁ。・・・まぁ、そんな理由もあって、会場には白刃と黒刃を護衛として連れ込んでいるけれど、気にしないでね。姿は見えないから、他の当主たちから苦情が来たりはしないだろう。一応君にだけ伝えておくよ。』
青藍はそう言って笑う。


「お前、勝手すぎ。・・・まぁ、別にいいが。式神の彼奴らなら、見つかっても言い訳のしようがあるからな。」
『あはは。流石加賀美君。それに、今日の護衛は六番隊だ。恋次さんと橙晴も来ている。睦月と師走もこっそりどこかに居るし、何かあれば皆がすぐに動いてくれるさ。』


「準備が良すぎるな。・・・お前、普段から狙われてんのか?」
『まぁ、そんなところ。命よりも貞操を狙われることの方が多いけど。』
「・・・俺、一度見かけたことがあるが、可哀そうな奴だよな、お前。」
豪紀は青藍に憐みの視線を向ける。
『うん。最近、深冬にすら憐れまれているよね・・・。ていうか、見かけたなら助けてよ・・・。』
青藍はそう言ってため息を吐く。


「まぁ、それはいいとして。」
『いや、良くないけど。』
「別にお前の貞操が狙われたところで俺に被害はねぇんだよ。」
『ひっどーい。僕という友人が苦しんでいるというのに・・・。加賀美君の薄情者。』
「五月蝿い。お前はもう席に戻れ。そろそろ始まるぞ。」
『はいはい。』
青藍は仕方なく頷いて、その部屋から出ていこうとする。


『あ、そうだ。何かあって加賀美邸が破壊されたら、朽木家で修理するからね。だから、壊したらごめんね。一応、何かあった時のために、言っておく。』
そう言い捨てて青藍は姿を消す。
「いや、最初から壊すつもりなのがおかしいだろ・・・。」
そんな豪紀の呟きは青藍には届かないのだった。

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