色彩
■ 24.一歩ずつ前進

『深冬、口を開けて?』
お願いするような命令。
その言葉を理解する前に、深冬は口を少し開ける。
それに小さく微笑んで、青藍は唇を寄せた。
するり、と青藍の舌が深冬の口の中に入れられる。
ゆっくり、じっくりと青藍はその口の中を蹂躙した。


「ん・・・。」
舌を絡められてそんな声が漏れた。
初めてのそれに驚きながらも、深冬は何とかそれを受け止める。
じわり、と涙が込み上げてくる。
それと同時に体の底から何か知らない感情が出てきそうになった。


深冬の唇を堪能した青藍は、苦しげな深冬を漸く解放する。
「ん・・・は・・・。」
唇を離すと二人の間を銀色の糸が繋ぎ、青藍はそれが落ちないように舐めとる。
それから呼吸を乱している深冬に視線を合わせた。


『・・・まだ、僕が可愛い?』
そんなの、愚問だ。
色を含んだ瞳に見つめられて、深冬は内心呟く。
普段の青藍はこういう欲を全く見せない。
冗談めかしてそういうことを言うときもあるが。


しかし、今自分の目の前に居る青藍は、どこか獣のような目をしていて、口付けをした後の唇が艶めかしい。
壮絶なほどに、美しい。
だかしかし、女性の美しさとはまた違うのだ。
こういう表情を見ると、どんなに綺麗な顔をしていても、彼は男なのだと実感する。


「・・・かわいくない。」
深冬は拗ねたように小さく呟く。
その呟きに青藍は楽しげに微笑んだ。
『ふふ。解ったならいいよ。』
満足そうにそう言って青藍は深冬を抱きしめる。


あんな顔をしているくせに、その腕の中がいつも通りで、でも、青藍の心臓の音がいつもより早くて、深冬は小さく笑みを零す。
青藍も同じなのだ。
一杯一杯で、余裕がないのは私だけではないのだ・・・。


そう思って深冬は青藍の背中に腕を回す。
それを感じたのか、青藍の抱きしめる腕が少しきつくなった。
そうやって応えてくれるのが嬉しくて、深冬は彼の首筋にすり寄ったのだった。


深冬を抱きしめながら、青藍は考える。
どうやら深い口付けも受け入れてもらえるらしい。
深冬に嫌がる様子はなかったし、口付けをした後の表情がとろんとしていて、それを物語っていた。


・・・まぁ、徐々に慣らしてきた成果だよね、お互いに。
青藍は内心で呟く。
始めは軽い口付け。
それから唇を食んだり舐めたり。
徐々に時間も長くしてきた。


そして今日、また一つ前に進んだ。
正直深冬が嫌がることも覚悟していたのだが。
可愛いと言われたことに託けて前に進めてみたのだ。
僕自身が大丈夫かどうかの確認も含めて。


・・・幸せだ。
もちろん、まだまだ物足りないが、それでも、幸せだ。
心が通じ合っていれば、ただ触れ合うだけで幸せなのだ。
体はもっともっとと、求めているが、それもゆっくりでいい。
深冬を抱きしめながら、青藍はそう思う。


でも、いい加減、全く手を出していないと言い通すのは、無理があるなぁ。
いや、おそらく男性陣は僕が何かしら手を出していることに気付いていることだろう。
それはそれで仕方がない。


自分と同じ男という性別故に、気付かれてしまうこともあるのだ。
何も言わないのは彼らの優しさ故のこと。
いや、蓮には言われたこともあるけれど。
それはそれでいいとして。


でもなぁ・・・。
母上や茶羅に気付かれるのは、何となく・・・ねぇ?
その他、乱菊さんあたりに気付かれると厄介なんだよなぁ・・・。
青藍はそれを想像して内心でため息を吐く。


・・・一日で瀞霊廷中に話が広まってしまう。
それも恐らく誇張されて。
僕はいいとしても、それでは深冬が可哀そうだ。
でも、深冬の顔を見たら、何か感付かれる。
先ほどの深冬の顔を思い出して、青藍は内心頭を抱える。
とりあえず、知らぬ存ぜぬで貫き通そう。
青藍はそう決めて、深冬との新たな秘密を胸の内に仕舞い込んだのだった。

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