色彩
■ 23.二人きりの非番

当主となって数か月。
新しき当主としてあちらこちらに挨拶を終え、細々とした儀式も終わって、漸く青藍に日常が戻ってきた。
当主としての仕事も、大半を白哉が青藍に押し付けていたため問題なく処理している。
その他諸々当主としての務めも青藍はそつなく熟していた。


その間、死神の仕事を白哉に押し付けたり押し付けられたりしているのだが。
まぁそれはお互い様である。
当主の会議で楼閣に行くと牡丹に絡まれることもあるが、その辺も適当にあしらい、その他の姐さん方からの遊び半分からかい半分の誘いも丁重にお断りしている。
貴族の姫様方からの誘いは深冬の存在を盾にして悉く断っているが。
何はともあれ、青藍に日常が戻ってきたのである。


そして、今日、青藍は非番。
貴族の集会などもない。
深冬と合わせて非番にした、貴重な休み。
普通ならば二人で出かけるのだが、ここ数か月、目まぐるしくあちらこちらへ動いていた二人は邸でゆっくりすることに決めたのだった。


二人で何をするでもなく、ただ一緒に居る。
気が向けば話すのだが、それも長くは続かない。
続かないが、二人はそれを気にすることなく、沈黙の時間を楽しんでいる。
時折触れ合って朗らかな笑い声が邸に響く。


そんな二人を邪魔する者は一人としていない。
白哉、咲夜、橙晴、ルキア、睦月は仕事であり、茶羅は二人でゆっくりできるようにと師走を連れて出かけているのだった。


それぞれに本を読み始めて一刻ほど。
本を読むのに飽きた青藍は深冬を眺めていた。
深冬の視線が本に釘付けになっていて、面白くない。
時折表情が変わるのも、面白くない。
これだけ見ているのに気付かれないというのも、面白くない。


・・・本に嫉妬とかどうなのよ、僕。
心が狭すぎる。
『・・・深冬。』
そんなことを思いながらも、青藍は深冬の名を呼んだ。


「何だ?」
返事をしながらも、深冬の視線も意識も本に向けられたままである。
・・・やっぱり、面白くない。
青藍はそう思って、文机に向かっている深冬を後ろから抱きしめる。


「青藍?」
深冬は驚いたように本から視線を外した。
そして青藍の方へ振り向く。
その視線が真っ直ぐに青藍に向けられて、青藍は微笑んだ。
深冬はそれに首を傾げながらも、一度文机に向き直って本にしおりを挟む。
そして今度は体ごと青藍に向き直った。


『・・・ふは。』
青藍はそれが嬉しくて、吹き出すように笑う。
そして深冬の腕を引いた。
深冬は腕を引かれるままに青藍の膝の上に座る。
「青藍?何を笑っているのだ?」
何だか楽しげな青藍に深冬は不思議そうに首を傾げる。


『・・・ふふ。君が僕を見てくれるのが嬉しくて。』
青藍はそう言って微笑む。
「な、んだ、それは・・・。」
嬉しそうに言われて、深冬は恥ずかしそうにそっぽを向いた。


『あはは。こっちを見てよ、深冬。』
言いながら青藍は深冬の頬に手を添えて自分の方へと顔を向けさせる。
再び視線が絡まって、それに満足したように微笑む。
それを見て青藍の言葉にどんな意味があったのか理解した。


「本に、嫉妬か?」
そう小さく言った深冬に、青藍は目を丸くする。
そして、ふ、と小さく笑みを零して深冬の額に唇を落とす。
『うん・・・。』


「・・・青藍は、ばかだ。」
言いながらも深冬は微笑む。
私が、どれほど青藍を見ているか、知っているくせに。
そう思うと同時に、それだけ自分を求めてくれていることが嬉しいのだけれど。


『ふふ。うん。知ってる。』
言われた青藍も笑う。
深冬はそんな青藍の頬に手を伸ばした。
頬に触れると青藍は瞳を柔らかくしてその手にすり寄る。
それが何だか可愛くて、深冬はおかしそうに笑った。


「青藍が、可愛い。」
言われて青藍は困ったように微笑んだ。
『可愛いのは深冬の方だよ・・・。』
拗ねたように青藍は言う。
そんな青藍に、深冬は再び笑った。


「やっぱり、可愛い。」
またもや深冬にそう言われて、青藍は唇を尖らせる。
そして深冬の頭を引き寄せると唇を奪う。
「ん!?」
驚いている深冬を余所に、青藍は彼女の唇を舐めた。
それから唇で食むように口付ける。


何度かそれを繰り返して、青藍は漸く口付けをやめた。
真っ赤になった深冬を見て満足そうな表情をする。
その瞳の色が深く変化していて、深冬の体に甘い痺れが奔った。
深い色になった瞳はひたすら甘くて、そうさせているのは自分で。
自分にしか見せなくて。
多分、これは優越感だ。
深冬は内心でどこか冷静にそんなことを考える。

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