色彩
■ 22.立派な姿

「失礼します・・・って、酷いですね。」
「皆さん、遠慮がない・・・。」
遅れてやってきた師走と睦月が雨乾堂の様子を見て苦笑する。


『二人ともお疲れ様。けが人は無事?』
「あぁ。解毒も治療もしてきた。」
「薬だって渡してきたから大丈夫だろう。何かあれば俺たちの所に来いとも言っておいたしな。ついでにその他諸々の処理もしてきた。」
『そう。ありがとう。』


「あ、そうそう。四番隊から、変な薬のせいで塀が溶けたって苦情が来たんだった。」
「やっぱり溶けてたんだ、あれ・・・。」
『あはは・・・。朽木家で修理するって言っておいて。睦月、手配よろしく。』
「はいはい。」


「睦月と師走って流石よね・・・。」
「あれの処理をしてきて平然としているとは・・・。」
「この人たち確か医師だった気が・・・。」
「師走はともかく睦月は朽木家の医者だ。」
「私もそう記憶している。」


『最近それを忘れそうになりますよね・・・。睦月は昔からこんな処理をしていますし・・・。』
「頼もしい二人だな・・・。」
朽木家一同は怖いものを見るように睦月と師走に視線を向けた。
しかし二人はそれを気にすることなく運ばれてきたお茶を啜っている。


『・・・ふぅ。お茶が美味しいなぁ。生き返る。』
青藍は起き上がると、湯呑を手に取ってしみじみと呟く。
「ははは。それは良かった。」
そんな姿に浮竹は朗らかに笑う。


「それにしても、青藍、本当に当主になっちゃったんだねぇ。」
京楽は青藍の姿を見て言う。
貴族の正装。
頭には牽星箝。
その首周りには銀白風花紗。
その他、帯やら何やら色々と飾り立てられている。
何処からどう見ても、朽木家当主の姿で、百人いれば百人がその姿に見惚れるほど。


・・・本当に、当主になっちゃったんだなぁ。
随分と立派になっちゃって・・・。
良かったね、咲ちゃん。
京楽は内心で呟いて、チラリと咲夜を見る。
未だ畳にへばりついている咲夜に苦笑を漏らして、青藍に視線を戻した。


『はい。本当に当主になっちゃったんです。・・・どうしましょうね?』
朽木家当主の姿をしているのに、その表情はいつもの青藍で、京楽はおかしくなる。
「あはは。どうするもこうするも、やるべきことをやるだけじゃない?ま、大変だろうけどさ。皆が青藍を支えてくれる。青藍は、青藍のままでいいと思うよ、僕は。」
『ふふ。そう言って貰えると、気が楽になります。』


「それで、深冬ちゃんとの祝言はいつになるんだい?」
京楽は楽しげに聞く。
『あぁ・・・それが・・・ですね・・・。』


「何かあったのか?」
遠い目をした青藍に、浮竹は首を傾げる。
『どうやら加賀美君も当主を継ぐそうで。今秋に決まったそうです。』
「そうなのか。それで?」


『それで冬に祝言を挙げることにしようかとも思ったのですが、来年になりそうです。加賀美家の当主の引き継ぎの儀には僕も必ず出席しなければなりませんし、祝言を挙げるには加賀美家との話し合いの場も必要ですし。加賀美君と大まかな予定を相談したのですが、ちょっと厳しいので。お互いに席官でもありますしねぇ。』
青藍はそう言って苦笑する。


「なるほどねぇ。じゃ、来年を楽しみにしておくよ。」
「この様子だからな。あっという間に来年になってしまうさ。」
『あはは。そうですね。とりあえず、何事もなく日々が過ぎていくことを祈るばかりです。』
「違いない。」


「失礼いたします。朽木家家令の清家にございます。」
そんな声が聞こえてきて、朽木家一同すぐに姿勢を正し、着物を直す。
それに苦笑しながら浮竹は入るように声を掛けた。


「皆さま、次のお勤めがございます。早々に朽木邸へお戻りください。昨日の儀に参加されなかった当主、次期当主の方々が続々とお祝いに訪れております故。」
それを聞いて皆が内心でため息を吐く。


「・・・皆様方、お急ぎくださいませ。客人をお待たせしております。」
それを見抜いているのか清家は厳しく言う。
『はい・・・。すぐに行きます。ほら、皆さん、もう一仕事です。睦月と師走は贈り物の検査を頼むよ。では、僕らはこれで失礼します。』
青藍の言葉で皆は渋々動き出したのだった。

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