色彩
■ 16.信頼

「睦月。」
「はい?」
「私の名を呼べ。」
睦月を真っ直ぐに見つめて、白哉は言う。
見つめられて睦月は情けない顔になった。


「でも、そうしたら、俺は・・・。」
「構わぬ。そなたはもう、一人ではない。」
『そうだよ、睦月。父上が君を手放しても、僕が拾ってあげるし。というか、睦月を守る役目も僕が引き継いだし。』


「その兄様が手放したら、次は僕が拾ってあげるよ。」
「あら、私は手放す気もないわ。」
「ふふ。私もだ。今のところ私の薬を作ることが出来るのは、睦月だけだからな。」
「睦月が居なくなったら、私は誰と甘味を食べに行けばいいのだ。」
そんな朽木家の者たちを見て、睦月は泣きそうになる。


「睦月。私の名を呼べ。」
「本当に、いいんですか?」
「いいと言っているだろう。全く、ずっとそんなことを考えていたとは・・・。そなた、咲夜より問題児ではないか。昔、私に自分の唯一は朽木家だと言ったことを忘れたか。そこまで言われて、朽木家がその信頼に応えないわけがなかろう。」
白哉は呆れたように言う。


「あはは。睦月も一人の時間が長かったからなぁ。だがなぁ、睦月。私は、君がずっと私を見守ってくれていたことを知っている。君は、不安定な私をずっと見守ってくれていた。私が道を踏み外さぬように。付かず離れずそばに居てくれた。それはつまり、君の傍には私が、私たちが居るということだ。君はもう、大切な仲間なのだ。さぁ、白哉の名を呼べ。」


「・・・びゃくや、さん。」
そう咲夜に言われて、呟くように睦月は彼の名を呼んだ。


「そうだ、睦月。そなたはここに居ろ。」
そう返事をした白哉の声と表情が柔らかくて、睦月の目には涙が溢れた。
その瞳から涙が零れ落ちる。


『あーあ。父上が睦月のこと泣かしたー。』
「父上ったら本当に狡いんだから。」
青藍と橙晴は茶化すように言う。
「勝手に泣いたのだ。私は泣かせてなどおらぬ。」


『「「それは嘘です。」」』
「あはは。嘘だな。確信犯だ。」
そう言われて白哉は盃を乾す。
それを微笑みながら見つめて、ルキアは涙を流す睦月の肩に手を添える。


「睦月、良かったな。」
「・・・あぁ。」
「私も、こうやって受け入れてもらったのだ。だから私は今、ここに居ることが出来る。何度お礼を言っても足りないくらい、幸せなのだ。」
ルキアはそう言って微笑む。


『ふふ。お礼を言うのはこちらの方ですよ。ルキア姉さまはずっと僕らを見守ってくれています。』
「そうそう。僕なんか、たぶん、初恋はルキア姉さまですよ?」
「あら、そうなの?橙晴ってば昔から年上好きなのね。」
「それで選んでいる訳じゃないけどね・・・。」


「初恋がルキアさんなんて、橙晴らしいわね。」
雪乃は楽しげだ。
「ふふ。安心してよ。もう僕は雪乃一筋だから。」
「それは残念だわ。」
『雪乃、嘘は駄目だよ。ほら、盃を乾して。』


「・・・。」
青藍の言葉に雪乃は不満げな視線を向ける。
『そんな目をしてもダメ。いいから呑む!』
そう言われて雪乃は渋々酒を口に含んだ。


「この様子なのに僕は待たされているって、生殺しだよね・・・。」
橙晴はそう言って盛大なため息を吐く。
「ふふ。まぁ、そう急ぐな。雪乃にも時間が必要なのだろう。」
その姿に咲夜は笑いながら言う。


「それは解っています。・・・ところで、師走も父上の名前を呼んでいないけれど、それは何か理由が?」
橙晴の言葉に皆の視線が師走に集まる。
「俺?」
『あはは。そう言えばそうだね。』


「いや、特に理由はないが。睦月がそう呼んでいるからご当主と呼んでいただけで。それに、ご当主は簡単に人に名前を呼ばせる人じゃない。」
「ふふん。師走も中々人を見る。」
「そうですか?それで、俺はご当主の名前を呼んでもいいんで?」


「・・・仕方がないから呼ばせてやろう。」
尊大に言った白哉に咲夜はくすくすと笑う。
「白哉、それも嘘だろう。仕方がないから、ではないよな?」
指摘されて、白哉は拗ねたように盃を乾した。

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