色彩
■ 14.当主の間

白哉は近くでその微笑を見ていた。
柔らかく、一足早く春を連れてきたような、そんな雰囲気がその場に広がる。
張りつめていた空気が緩んで、温かささえ感じるほどだ。
他の当主たちもそれに驚いているようだった。


表情一つでこれほど空気を変えてしまうとは・・・。
青藍の視線の先では、深冬もまた微笑んでいて、白哉は内心苦笑した。
この場でそんな表情が出来るのならば、並大抵のことでは潰れたりしないだろう。
この二人ならば、安心して朽木家を任せることが出来る。


長かった・・・。
ここに来るまでに、私は、ずっと、待っていた。
だが、漸く・・・。
そう思って白哉は力を抜く。


漸く、私は、爺様と父上に並ぶことが出来る。
当主としての務めを果たすことは勿論、次の当主を育て上げることも、当主として重要な仕事なのだ。
私は、それを、やり遂げたのだ・・・。


何度も命を危険に晒した。
緋真を失い、もう二度と誰かを愛することなどないのだと思った。
跡継ぎのために適当な者を選ぶのだと。
それを咲夜に覆され、青藍が生まれ、橙晴と茶羅が生まれた。
愛する者との間に生まれた子どもがこんな姿を見せてくれた。


私は、なんと幸せなのだろう。
そう思って、白哉は咲夜に視線を移す。
示し合わせたようにその視線が絡まって、咲夜の微笑みが見えた。
それを見て、今、この場に居ることだけで、これまでの苦悩が全て浄化された気がした。


全ての儀式を終え、当主たちへの挨拶も済ませた頃には、もう太陽が沈みかけていた。
青藍はいつも通りに自分の部屋に向かおうとして、内心苦笑する。
今日から僕は当主なのだ。
僕の私室は当主の間になる。
今朝まで父上が使っていた部屋が僕の部屋になるのだった。


暫くは間違えそうだなぁ。
きっと父上も間違えるのだろう。
それほど長く、当主の務めを果たしていたのだから。


「青藍?」
もうすぐで部屋につくという所で、深冬が部屋から顔を出した。
『深冬。』
「私の部屋は今日からここだそうだ。」
『ここは母上の部屋だ。当主の妻のための部屋。』
「まだ青藍の妻ではないのだが、咲夜様がそうしてやれと。先ほど言われた。」


『ふふ。そうか。それは心強いね。まぁ、母上のことだから、父上の近くの部屋に移ったのだろう。』
「なるほど。そういうことか。」
『皆で部屋を間違えないようにしないとね。』
「そうだな。」
そういって二人はくすくすと笑う。


「兄様?深冬も。どうしてここに居るんです?」
「あら、兄様、まだお着替えも済んでいないのね。」
橙晴と茶羅が姿を見せる。
『着替えるために部屋に行く途中。』


「・・・あ、そうか。部屋が移動しているんだった。父上たちを呼びに来たのに。」
「そうだったわ。父上と母上、それから深冬もなのね。」
「あぁ。今日からここが私の部屋だ。」
「部屋が近くなって、兄様、大変ですねぇ。」
橙晴は面白がるように言う。


『あはは。そうかも。』
「そういう割には余裕そうですわね。」
『まぁね。』
「ふぅん?何かあったのですか?」


『そういう訳じゃない。ただ、深冬、儀式のとき微笑んでいたから。だから、急がなくてもいいかなって。ずっとそばに居てくれるんだろうなって、そう思えたから。』
青藍はそう言って微笑む。
「私はこれまでも青藍のそばに居ると言ったはずだぞ。」
青藍の言葉に深冬は不満げに言う。


『ふふ。そうだね。』
「・・・なるほど。だから兄様は微笑んだのね?」
『うん。驚いたよ。深冬ってば大物だ。』
「確かに。あの場で微笑むとは大物ですねぇ。」


『まぁでも、深冬が僕の妻になったら遠慮はしないけど。だから深冬、覚悟しておいてね。』
青藍は楽しげに言う。
「・・・わかった。」
青藍に言われて深冬は赤くなりながら頷く。


『あはは。可愛い。あ、覚悟が早い分には歓迎だよ?』
「な!?」
青藍の言葉に深冬は目を見開く。


「兄様、本音が出ていますよ。」
「兄様って本当に狼よね・・・。」
「あの母上似の綺麗な顔の下でどれほどのことを考えているのやら。」
「青藍兄様みたいな人を羊の皮を被った狼っていうのよね。」
赤い顔をした深冬を楽しげに覗き込む青藍に二人は呆れたようにそう言ったのだった。

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