色彩
■ 13.新しき当主

それから数か月。
あっという間に季節は過ぎ去り、暦の上ではもう春である。
といっても、まだまだ寒さは厳しいのだが。
その寒さの中、青藍は当主引き継ぎの儀を迎えていた。
他の貴族の当主たちが集まり、彼らが証人となって、青藍を朽木家の新しい当主として承認する。
その儀は粛々と進められ、他の貴族から異議が上がることもない。


「・・・ここに、第二十九代朽木家当主として朽木青藍を迎える。我ら一同、これを歓迎し、新しき朽木家当主にお祝い申し上げる。」
白哉はそう言って青藍に頭を下げる。
それに続いて他の当主たちも青藍に首を垂れた。


今、この時から、青藍は朽木家の当主となったのだ。
その場に居る者全てが、青藍に頭を下げている。
・・・これが、僕の歩む道だ。
その光景を見て、青藍は内心で呟く。


誰一人として、こちらを見ない孤独。
相手の顔が見えない孤独。
でも、僕は一人じゃない。
共に歩むと決めてくれた者たちが居る。
その覚悟を、僕は絶対に忘れない。
青藍は改めてそれを誓った。


粛々と進められていく儀式を咲夜は眺めていた。
我が息子ながら、なんと美しい姿だろう。
顔のつくりが美しいというのもあるが、それだけではない。
その身の内から美しさが湧き出てくるようなのだ。
その姿の何と眩いことだろう。


この場に居る誰もが青藍の姿に圧倒されている。
あの白哉でさえ、その姿に躊躇うことなく頭を下げたのだ。
儀礼であるとはいえ、あの誇り高い白哉が。
その場に居るだけで、その場を支配してしまう。
あれが、私の、白哉の、息子。
そして朽木家の新しき当主の姿。


何と誇らしい・・・。
そう思いながら、咲夜は青藍の姿を見つめる。
それから、ルキアを見て、橙晴を見て、茶羅を見て、銀嶺を見る。
最後に白哉を見つめて、ありがとう、と、内心で呟いた。


蒼純様。
宗野隊長。
そして、父上。
此処へ来るまで、色々なことがありました。


楽しいことばかりではなかったけれど、この先もそればかりではないけれど、でも、咲夜は幸せです。
貴方方の隣を歩くことはもうできないけれど、私は、彼らとともに、生きてゆこうと思います。
心の中でそう呟けば、思い浮かべた彼らが微笑んで、見えない何かにふわりと頭を撫でられた気がした。


・・・あれが、第二十九代朽木家当主としての朽木青藍。
深冬もまた青藍の姿に圧倒されていた。
普段からは想像もできない神々しさが、青藍から発せられている。
凛と前を見つめ、すべてを背負っても尚、真っ直ぐに立ち続ける。


あれが、私の大切な人。
あの人が、近い将来、私の夫となる。
私はあの人と並んで歩いていくのだ・・・。
不安がない訳ではない。
私などが並んでいいのか、いまだに疑問もある。


だが、それでも、私は、その覚悟を決めたのだ。
青藍と共に歩む覚悟を。
深冬はその姿を目に焼き付けるように見つめる。
この日の覚悟を忘れないように。


青藍は自分をじっと見つめる深冬に気が付いていた。
そして、青藍も深冬を見つめ返す。
その視線を受け止めて、深冬は小さく微笑んだようだった。
この状況で、笑みを見せることが出来るなんて・・・。
青藍は内心で舌を巻く。


やっぱりあの子は、強くて、綺麗だ。
僕の大切な、ただ一つの宝物。
彼女の微笑みを見れば、先ほど感じた孤独など、嘘のように消えてしまう。
深冬が居るだけで、僕はこんなにも強くなれる。
青藍はそんなことを思いながら、深冬に笑みを返した。

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