色彩
■ 12.強くなろう

そんなこんなで定刻になり、青藍と深冬は手を繋いで邸へと向かっていた。
二人の間に会話は特にないが、その繋がれた手が二人を安心させていた。


・・・やっぱり、青藍の隣が一番落ち着く。
歩きながら深冬は内心でそう呟く。
ずっと梨花と実花に引っ付かれていたせいか、ここ数日、深冬が青藍に触れることがほとんどなかったのである。
青藍からも触れてくることはほとんどなく、顔を合わせる度に頭を撫でられるくらいだった。


そんなことを考えていると、するり、と指が絡まってくる。
びくりとして深冬は青藍を見上げた。
しかし、その横顔はいつも通りの顔である。


・・・なんだか悔しい。
深冬はそう思って青藍の手を握り返した。
そしてチラリと横目で青藍を見ると、今度は小さく微笑んでいるようだった。
それが嬉しくて、深冬も小さく笑みを零す。


会話はないがそんなやり取りをして、一緒に居ることを確かめる。
深冬はそう言う時間が好きだった。
青藍と話すのも楽しいし、青藍の声が好きだ。
でも、こうやって触れ合っている時間が、私は一番好きだ。


私よりも大きな体が、私よりも大きな手が、私を包み込んでくれる。
此処に居ていいと言ってくれているようでとても安心するのだ。
そして多分、青藍もこういう時間が好きなのだろう。
隣の気配が楽しげで、嬉しげで、深冬は小さく笑う。
それに気が付いたのか、青藍は深冬を見た。


『・・・どうかした?』
そうして向けられる瞳が、普段とは違って、甘い。
これは、二人きりになった時だけに見せる瞳である。
それがくすぐったくて、深冬はまた小さく笑う。


『深冬?』
そんな深冬に青藍は首を傾げる。
「・・・これが、いつも通りで、安心すると思ったのだ。」
深冬もまた瞳を柔らかくして言う。
『ふふ。うん。僕もそう思う。』
深冬の言葉に青藍は微笑む。


「青藍。」
『んー?』
「・・・ふふ。」
名を呼べば返事をしてくれることが嬉しい。


「青藍。」
『なぁに、深冬?』
名を呼ばれるだけでも、嬉しい。
「・・・呼んだだけだ。」
『ふふ。何それ。』


笑ってくれたらもっと嬉しい。
多分、これが、幸せというのだろう。
こういう小さなことが。


ありふれた日常の、ありふれた風景。
隣に居るのが当たり前で、触れ合うのが当たり前で。
・・・やっぱり、私は幸せだ。
この先、青藍が当主になって、私が青藍の妻になる。
それが重荷なのは重々承知している。
でも、この日常があれば、何だって出来るような気がした。


・・・咲夜様の言う通りだ。
大切なものが出来ると、人は強くなる。
強くなろう。
この人の笑顔を守ることが出来るように。
深冬はそんなことを考えながら、青藍と共に歩いたのだった。





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