色彩
■ 10.嬉しい

青藍ってば、安心しちゃって。
これ以上深冬ちゃんの近くに居ると、この場で抱きしめてしまいそうだったのだろうね。
だから、この場を早々に立ち去った。
でも、気付いているのかなぁ。


僕も最近気が付いたけれど、青藍の瞳は、感情が昂ぶると少し深い色になる。
ほんの少しだけだけれど。
深冬ちゃんが青藍をちゃんと見ていてくれたことが嬉しかったのだろうなぁ。
そんなことを考えつつ、キリトは深冬をチラリと見やる。
梨花と実花に詰め寄られて困ったようにしている。


この子だから、青藍は選んだのだろう。
きっと青藍はこの子に嘘を吐くことは出来ない。
でも、この子はありのままの青藍を知っても、そばに居ると決めた。
それはきっと、青藍にとって何よりも強い味方だ。
青藍は強いけど、弱いから。


深冬ちゃんは青藍が怪我をしたときだって凛と前を向いていた。
泣きそうになりながらも、涙を流すことはしなかった。
青藍を信じて、ずっと待っていた。
きっと、この強さに、青藍は惹かれたのだろう。
キリトはそんなことを考えて、小さく笑う。
そして、困っている深冬を助けてやることにしたのだった。


一方その頃、青藍は十番隊に居た。
「おい、何しに来たんだよ、お前。」
隊主室に入るなり、冬獅郎に適当に挨拶をして、青藍は長椅子に倒れこんだ。
そんな青藍に、冬獅郎は呆れた視線を向ける。
『ちょっと頭を冷やしに。今の僕は、色々と駄目な気がします。』


「は?」
『いえ、気にしないでください。ちょっと、嬉しくて。』
言いながら青藍は顔を隠す。
「それで何で俺のとこに来るんだよ・・・。」


『だって、その辺で寝ていたら僕、危ないですもん。安全に寝られる場所の中でここが一番近かったので。』
「・・・はぁ。邪魔すんなよ。」
『はい。邪魔はしません。ちょっとここに居させてください。』


冬獅郎にそう言いながら、青藍は内心嬉しさを噛みしめていた。
隠していたつもりだったのに、深冬には見抜かれていた。
見抜かれたことは情けない気もするけれど、それほど深冬が僕を見ていてくれた。
その事実が青藍には嬉しかったのである。


それに、二人になりたいのなら、そう言えと言ってくれた。
それは僕を優先してくれるということ?
僕はそう考えてもいいのだろうか。
それはもう、嬉しすぎる。
早く家に帰って抱きしめたい。
キスだってしたい。


「隊長、お茶でもどうですかぁ・・・って、青藍じゃない。」
青藍がそんなことを考えていると、隊主室に乱菊がやってくる。
『乱菊さん。お邪魔しています。』
青藍は顔を隠したままそう言う。
そんな青藍に、乱菊は顔を覗き込もうと長椅子の方へとやってくる。


「・・・青藍、耳が赤いわよ。もしかして、深冬と何かあった?」
乱菊は楽しげに言う。
『・・・いえ。何でもありません。』
「ふぅん?唇でも奪っちゃった?」


『違います!』
「何、アンタまだ手出してないの?」
否定した青藍に乱菊は呆れたように言う。
『・・・それは、まぁ、別にいいじゃないですか。』


いや、唇に関して言えば、実は、奪っているし、奪われているのだけれども。
そんなことを言えば、あっという間に瀞霊廷中に話が広まってしまう。
「じゃあ、何で顔赤くしてんのよ。このあたし相手でもそんな顔にならない癖に。」
『ちょっと嬉しかったんですよ。でも恥ずかしくもあるんです。だから、顔が赤くなるぐらい、気にしないでください。』
青藍は拗ねたように言う。


「なるほど。それでいろいろ抑えるためにこんなところに居るのね。アンタ、一体いつまで我慢するつもりなの?そのうち仙人になるわよ?」
『五月蝿いですね。別にそんなのは後回しでいいんですよ。』
「というか、ぶっちゃけ、青藍ってそういう経験あるわけ?」
乱菊は興味津々といった様子で青藍に聞く。


『・・・それは秘密です。』
言いながら青藍は内心でため息を吐く。
あると言えばあるし、ないといえばない。
そう言う機会を用意されたこともあるが、最後までどころか、そもそも触れられなかった。


キスだって、深冬が最初。
牡丹さんに用意された女性を前にしても、何も出来なかったし、心も体も動かなかった。
嫌な思い出がそこに付き纏うために。
過去のトラウマのお蔭で、女性に触れたいと思うことなどなかった。
ましてや、その先など考えられなかった。


だから、僕自身、深冬に反応する心と体に戸惑っているのだ。
顔を見れば、触れたくなってしまうのだから。
深冬に待つといったけれど、どうやら僕の方は心も体も準備が出来ているようだった。
もちろん、深冬のために待つけれど。


「ふぅん。否定はしないってことはあるのね。そういう経験。でも、触れることすら出来なかったのね?つまり、最後までの経験はない。そんな顔なのに。」
『いや、秘密だって言いましたよね?というか、そういう発言するの、やめてもらえません?』
乱菊の発言に青藍は起き上がって抗議する。

[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -