色彩
■ 9.余裕

「・・・その必要はないわ。梨花姉さま、やっとその気になったのね。長かったわぁ。」
「え?」
『・・・え。』
けろりと言い放った実花に、梨花と青藍は動きを止める。


「ずっと茶羅と相談していたのよ。姉さまをその気にさせるにはどうしたらいいかって。それで、お父様も巻き込んだの。そうしたら、お父様が、青藍様なら姉さまのことを叱ってくれるだろうって。」


『・・・それはつまり、最初から全部君たちのシナリオ通りってこと?』
「まぁ、簡単に言えば。」
「え・・・じゃあ、今までの言動は全部演技・・・?」


「当たり前じゃない。私、最初から当主になるつもりなんてないもの。嫌よ、面倒臭い。」
その言葉に青藍と梨花は蟀谷を押さえる。
十三番隊士たちは苦笑いだ。


『やられた・・・。』
青藍は力が抜けたように呟く。
「信じられないわ・・・。」
『この僕を騙すとは、君の妹は天才か?』
「私なんてこれまでずっと騙されていたのよ?何年姉妹をやっていると思うの・・・。」


『あはは。・・・そうか。納得したよ。何故茶羅が君たちを選んだのか。茶羅にもいい友人がいるようだね。これからも頼むよ。』
青藍は苦笑する。
「もちろん。」
そんな青藍の言葉に、実花は楽しげに頷いた。


「深冬様に張り付いていれば青藍様がしびれを切らすことだって解っていたわ。予想以上に青藍様、我慢強かったけれど。三日ぐらいで折れると思ったのに。」
『あはは。出来ればその手はもう使わないでほしいかな。』
青藍は力なく笑う。


「あら、やっぱり効果的なのね。青藍様、全くそのそぶりを見せないからどうしようかと思ったわ。深冬様もそう思わない?」
そう言って実花は深冬を見る。
「いや、様子が変だった。考え事をしていると言っていたが、梨花さまと実花さまをどうするか、考えていたのだな?」


『あはは。流石深冬だよね。・・・そうだよ。どうやって二人を深冬から離そうか考えていた。二人とも悉く僕と深冬の時間を潰してくれたからね。』
「それならそうと私に言えばいいのに・・・。」
深冬は不満げだ。


『うん。次からはそうするよ。深冬が楽しそうだったから遠慮したけど。深冬が雪乃と茶羅以外の姫と楽しげなのは初めて見たから。』
「・・・。」
図星なのか深冬は拗ねたように沈黙する。


『本音を言うと、深冬って貴族の女性が基本的に苦手でしょ?』
「・・・あぁ。」
『まぁ、それは仕方がないとしても、今後もそれではいけないからね。少しずつ、慣れていってね。君を表に出すのは必要最低限にするつもりだけれど。』
「うん。解った。」


『梨花姫と実花姫も、深冬のこと、よろしく。』
「「えぇ。もちろん。」」
『うん。じゃ、僕は仕事に戻るよ。仕事が終わったらまた来るから。』
青藍はそう言うと、深冬を一撫でして十三番隊を出ていったのだった。


「青藍様って、なんだかんだ言っても余裕なのよねぇ。」
青藍の姿を見送った梨花は詰まらなさそうに言う。
「確かにそうだわ。もう少し取り乱してくれると思ったのだけれど。」
実花はそう言って唇を尖らせる。


「・・・ふふ。」
そんな二人の後ろから小さな笑い声が聞こえる。
「キリトさん?」
それに気付いた深冬は首を傾げる。
「ふふ。ごめん。面白くて。そうか。君たち二人にはあれが余裕に見えるんだね。」


「「?」」
キリトの言葉に梨花と実花は首を傾げる。
「深冬ちゃん、あれ、どう思う?」
キリトは楽しげに問う。
「・・・私に聞かないでください。」
深冬は気まずそうにそっぽを向く。


「流石に深冬ちゃんは気が付いているんだね。相変わらず青藍のことよく見ているよね。」
「え、何々?どういうことなの?」
実花は興味津々といった様子でキリトに詰め寄った。


「ふふ。青藍ったら、すぐに帰っちゃった。でも、ご機嫌だったなぁ。」
キリトは意味ありげに言う。
「何?一体どういうことなの?」
「ふふふ。余裕があるように見せているだけかも、という話だよ。」
楽しげに微笑むキリトに、梨花と実花はさらに首を傾げた。

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