色彩
■ 8.当主の責任

「・・・笛を吹くこと以外に、何をしろというのよ。当主になる者として、必要なものって何よ。」
梨花は静かに問う。


『・・・覚悟だ。全てを背負う覚悟だよ。当主は家を背負うんだ。好き勝手は出来ないし、家のために心を殺すことだってしなければならないときもある。もっというと、家のために命を捨てなければならないこともある。』
青藍の言葉に、梨花は考え込む。


『その上、君たちは女性だ。当主というのは男性社会だよ。女性だからと軽くみられることだってある。君たちのどちらかが当主になれば、その中でやって行かなければならないんだ。相手の腹を探って何が最善かを考える。そうやって神経をすり減らして、潰れていく当主も居る。それでも当主は家を投げ出してはいけないんだ。当主としての立場と、個人としての立場が、心の中でせめぎ合って、苦しく辛いことだろう。その苦悩と付き合っていく覚悟があるかい?』


「・・・青藍様は、その覚悟をしたというのね?」
『当然。その覚悟をして僕は朽木家の次期当主となった。そして、来春、僕は朽木家の当主となる。名実ともに、朽木家を背負う。逃げないと、覚悟は決めてある。この先どういう苦悩があるか知った上で、それを受け入れる。でもそれは僕だけじゃない。蓮や雪乃、深冬、他にもたくさんの人たちがそれを知った上で僕の傍に居る覚悟をしてくれている。』
梨花の問いに青藍は凛と答える。


「家のためなら、自分の命さえ、利用する?」
『そうだよ。それしか手がないのならば。・・・実をいうと、命はすでに懸けてあるんだ。僕の心臓にはある紋様が刻まれている。僕だけではない。父上に橙晴、茶羅にルキア姉さまも。僕らの内誰か一人でも漣家を裏切るような真似をすれば、僕らの心臓は貫かれる。全員だ。僕らは文字通り命を懸けて漣家を守ると誓ったからね。』
青藍は軽く答える。
その答えに梨花は目を見開いた。


『まぁ、それほどの覚悟は周防家には必要ないかもしれないけれど。僕らの場合は特殊だからね。漣家に心臓を貫かれるよりも、死神業で死ぬ確率の方が高いし。ただ、覚悟を示すためにそうした。そこまでしなければ、漣家には認めてもらえなかったから。母上は、漣家にとって、それだけ重要な存在なんだ。』


「そう・・・。」
それを聞いて梨花は一つ深呼吸をする。
「・・・解ったわ。」
梨花はそう言って青藍を真っ直ぐに見つめた。
「どうやら、青藍様に示すよりも先に、お父様に覚悟を示さないといけないようね。」


『決めたのかい?』
「えぇ。私たちのこれまでの振る舞いが浅はかだったわ。青藍様、深冬様、そして、十三番隊の皆様。ご迷惑をおかけいたしました。」
梨花はそう言って一礼する。


『いや、僕もきついことを言ってしまって悪かった。頭をあげてくれ。』
それを見て青藍は雰囲気を和らげる。
「ふふ。本当よね。青藍様ったら、本当に優しくない。茶羅から聞いた以上ね。」
『それは悪かったね。どうせ僕は優しくないさ。』
おかしそうに笑う梨花に青藍は拗ねたように言う。


「まぁ、いいわ。事実だもの。笛だけだと言われないために、とりあえずお父様に当主の仕事を学んでみようと思うわ。青藍様に覚悟を示すのは、お父様に認めてもらってからよ。それまで待っていなさい。」


『はいはい。気長に待ちましょう。』
「じゃ、帰るわ。実花、行くわよ。私は当主になると決めました。貴方がなりたいというのなら今度は本気で戦うつもりよ。手加減なんかしないわ。」
梨花はそう言って実花を真っ直ぐに見つめた。

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