色彩
■ 5.おめでとう

『・・・・・・僕だって色々あるんだよ。手を出そうと思えばいつだって出せるさ。でも、僕だけが満足したって意味ないじゃないか。それに、深冬はまだ成長途中なんだよ・・・。』
「いや、まぁ、そうだけど。」


『だってあの子、僕の前で安心したように眠るんだよ。僕に対して全くと言っていいほど警戒心がないの。それはそれで嬉しいけど、でも、色々と拙い訳で、でもだからと言ってその信頼を裏切るのも出来なくて・・・。』
青藍は三度机にへばりつく。


「あはは。なるほど。いろいろ考えている訳ね。まぁ、その気がない訳じゃないならもう僕は何も言わないよ。青藍、そういうの見せないから、心配だったんだ。深冬相手でも駄目なのかと思った。」
蓮はそう言って苦笑する。


『どんな心配をしているの・・・。いや、まぁ、母上にもそんな心配をされた気がするけれど。』
・・・そう言えば、母上やルキア姉さまや雪乃や茶羅に何か余計な話をしたけれど、まさか、深冬に話したりはしないよね?
青藍は内心で呟く。


「あはは。咲夜さんにも言われたのか!それは大変だね。」
『笑い事じゃないんだよ・・・。母上ったら楽しんでいるんだから。深冬に色々と余計なことを吹き込んで。』
青藍は拗ねたように言う。


「へぇ。それを深冬に実践されて困っているわけだ。煩悩との戦いってやつ?」
『五月蝿いな。・・・お蔭で深冬が可愛くて仕方がない。』
「それでなくても可愛くて困っているものねぇ。」
『・・・はぁ。そうなんだよ。あの無防備さはどうしたら治るのかな。婚約したときはそれでも平気だったんだけど。でも、最近深冬が大きくなった上に綺麗になって辛い。』


・・・ん?
婚約したときは平気だった?
それは一体どういうことだ?
その言葉の意味を考えて、蓮はある事実に気が付いた。


「・・・青藍、もしかして、婚約したときには自覚していたの?」
蓮に言われて青藍はまずい、という顔をする。
突っ伏しているため、蓮からはその表情は見えないのだが。
その辺のことは雪乃には話したが、蓮と侑李たちには話していないのだ。


今のは失言だった・・・。
青藍は内心でため息を吐く。
「・・・ふぅん。そういうことだったんだ。だから、わざわざ婚約までしたんだ。」
蓮は冷たく言う。


「青藍、顔をあげなさい。」
『う・・・。』
そう冷たい声で言われて青藍は大人しく顔を上げる。
するとそこには黒い笑みを浮かべる蓮が居た。
蓮は青藍の頬を力一杯つねる。


『いっ!!??』
「自分が何をしたのか、解っているんだよね?」
青藍は涙目になりつつも頷く。
「・・・そう。じゃあ、これだけにしてあげる。」
そう言って蓮は手を放す。


『痛いよ、蓮。僕、ちゃんと自分で解っているし、深冬にもそれを話してあるし、それで十分苦しんだんだよ・・・。』
「苦しんだのは自業自得でしょ。まぁ、深冬はそれでも君のそばに居るのだから、いいけれど。」


『うん。もう、本当に、手放せなくなってしまったよ・・・。』
青藍は困ったように微笑む。
「最初から捕まえておいてよく言うよ。」
『それはそうなのだけれど。深冬が本気で嫌だと言えば、僕はきっと手放してしまっただろう。それで、今以上に苦しむことになっていた・・・。』


「青藍って、我が儘なのかそうでないのか、解らないよねぇ。」
『あはは。でも、本当に大切な者は傷つけたくないし、笑っていてほしい。それで自分が傷ついたり、苦しんだりすることになっても、そうあって欲しいと思うのは普通のことじゃない?』


「ま、そうだね。でも、青藍はもう少し我が儘でいいと思うよ。青藍が欲しいと言えるのはそれだけなんでしょ?」
『うん。深冬がそばに居るだけで、僕は何でもできる気がするよ。そして深冬はその覚悟をしてくれている。』
青藍は柔らかく微笑む。


「そっか。それは良かった。そう言えば、まだ言っていなかったね。・・・おめでとう。」
『ふふ。ありがとう。』
その青藍の微笑みを見て、蓮は思う。


青藍は、いつも我慢しているわけではなかったのだと。
本当に欲しいものを見つけようとしていたのだ。
そして、それが見つかった。
だから迷いなくそれを手に掴んだ。


まぁ、その方法はともかくとして、それならそれで僕も心配しなくていいか。
彼の背負うものを理解しているつもりだし、彼のそばに居る覚悟だって決めているのだ。
きっと、他の皆だって同じで、青藍だけじゃなく僕にだって手を貸してくれるのだろう。


「ふふふ。」
何だかおかしくなって蓮は笑い出す。
『蓮?どうしたの?』
「あはは。何か、僕も力を貰った気がする。僕も、覚悟を決めないとなぁ。」


『玲奈さんのこと?』
「まぁね。天音様からは好きにしていいと言われているから。あとは、玲奈さんの気持ち次第なんだ。僕も青藍みたいに待たなくちゃなぁ。」
蓮はそう言いながらも朗らかに笑う。
それを見て青藍も笑い出し、暫く三番隊の副官室には笑い声が響いたのだった。

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