色彩
■ 4.優しい友

「・・・青藍、邪魔だよ。」
蓮の机にへばりつくようにしている青藍に、蓮は迷惑そうに言う。
ちなみにここは三番隊の副官室である。
蓮の主な仕事は隊長の捕縛と見張りであるため、イヅルと共に副官室に居るのだ。
といっても現在イヅルはローズと任務に出ているため蓮一人なのだが。


『もう、僕、疲れた・・・。』
「仕事はどうしたの?」
『終わらせてきた。だから後は待機だけ。』
「そう。それで、何で僕の所に来るかなぁ・・・。」


『だって、深冬と二人の時間が、梨花姫と実花姫に奪われているんだよ・・・。この三日、あの二人がずっと深冬のそばに居るんだ。酷いよ・・・。』
青藍は力なく言う。
「それは・・・なんというか・・・ごめん?」
そんな青藍に、すでに事情を聞いている蓮は苦笑する。


『大体、何故僕が巻き込まれているのか・・・。』
青藍は大きなため息を吐く。
『・・・もう、蓮、周防家の当主になっちゃいなよ。』
「えぇ・・・。青藍、それは投げやり過ぎない?」


『じゃあ、玲奈さんと結婚しちゃいなよ。そうすれば、僕は適当に周防家の当主決めを傍観するのに。』
「そういうのは・・・まぁ、時期があるでしょ。」
青藍の言葉に蓮は気まずげに言う。


『何で?欲しいなら欲しいと言えばいい。』
青藍は顔をあげて面倒そうに言う。
「それは・・・朽木家の方針だよね。それに、今は、玲奈さん、昇進試験のために、一生懸命なんだ。とりあえずそれが落ち着くまで待つよ。」


『そんなぁ・・・。じゃあ僕、何時まであの二人に深冬を取られていればいいの・・・。』
青藍は再び机にへばりつく。
「あはは・・・。それは、青藍が攫えばいいんじゃない?」
『それは・・・出来ないよ・・・。』
「どうして?」


『だって・・・当の深冬が楽しそうなんだもの。知っている?深冬、貴族の姫でちゃんと話すの、雪乃と茶羅だけだったんだよ。貴族の席に行くといつも男性陣に囲まれるから。それに・・・僕のせいで、姫たちに痛い目に遭わされたことだってある。だから、あまり他の姫に近付くことがないんだ。』


「なるほどねぇ。友達が出来て楽しそうなわけだ。」
『うん・・・。最近、表情も豊かになってきたし、良く笑う。それは、喜ばしいことでしょう?それを、僕の我が儘で邪魔するなんて出来ないよ・・・。』


青藍は、我が儘だけれど、本当の我が儘にはなりきれないんだよなぁ。
机にへばりついて弱々しく言う青藍に蓮は内心苦笑する。
まぁ、だから、青藍の周りには人が集まるのだけれど。
青藍は自分のことを優しいとは言わないけれど、仲間と認めた者のためならば、力を貸してくれる。
力の限り護ってくれる。
大切な人が笑っているのならばそれでいいと、見守るだけにする。


・・・青藍は、本当は、とても優しい。
今回だって、僕と玲奈さんを心配して巻き込まれてくれたのだろう。
それだけ思ってくれることが嬉しい反面、心配でもある。
もう少し、我が儘でもいいのに。
昔から、いつも我慢ばかりで、自分から欲しいとは言わない。
いつも自分のことは後回し。


思えば、琥珀庵のお菓子を朽木家に持っていくと、そのお菓子をいつも最後に選んでいた。
だから、青藍がどの菓子が一番好きなのか、僕にはずっと解らなかった。
苺大福が好きだと知ったのは最近だ。
それも深冬に言われて知ったのだ。
そして、そういう小さなことにも気付いてくれる深冬だから、青藍を任せることが出来ると思った。
青藍は自分を隠すのが上手いから。


「・・・欲しいなら欲しいと言えばいい。」
蓮は唐突に呟く。


『え?』
そんな蓮に青藍は再び顔を上げた。
「そう言ったのは、青藍でしょ?僕のことなんか気にしないで深冬を二人から連れ去ればいい。」
『でも・・・。』


「僕らは大丈夫だよ。慶一伯父様のお遊びに付き合わされているだけだからね。僕は絶対に周防家の当主になんてならないし、玲奈さんを手放す気もない。愛のためなら家だって捨ててしまう人の血を引いているから、何とかするさ。」
蓮は悪戯っぽく言う。
そんな蓮に青藍はポカンとして、一瞬の後に笑い出した。


「だから、青藍ばかりが我慢する必要もない。梨花と実花だって適当にあしらっておけばいい。伯父様に手を出すなと言われたって、手を出して早々にこの件を片付ければいい。周防家の当主が誰になろうと、青藍のやるべきことは変わらないし。」
『ふふ。そうだね。』


「というかさぁ、青藍、このままずっと我慢していたら、深冬に手を出せなくなるよ?まだ大して手を出していないんでしょ?」
蓮は呆れたように言う。
『な!?』
その言葉に青藍は目を丸くする。


「何でわかるかって?」
『うん。』
「それは勘としか言いようがないけれど。まぁ、手を出し辛いというのも解るけど、それって男としてどうなの?」
呆れ半分、心配半分で言われて、青藍は言葉に詰まった。

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