色彩
■ 2.次期当主候補

「どんな理由にしろ、蓮が周防家と繋がっていると知られるのは拙い。いつかは表沙汰になることかもしれないけれど、今はその時期ではない。」
『うん。彼らは姫様方から人気があるからね。半分は貴族の血ではないといっても、もう半分は上流貴族周防家のもの。中流以下の貴族にとっては、相手として申し分ないから、姫様方の親も反対はしないだろう。』


「そして、見合いをすることにでもなれば、南雲家はそれを断ることは出来ない・・・。周防家に頼むことも出来るだろうけど、周防家が表だって動けば、余計に彼らを欲しがる者たちが出てきてしまう・・・。」
『それを考えると、周防家は動かないだろうね・・・。』
青藍はため息を吐く。


「だけど、それでは蓮と玲奈さまを引き裂くことになる。あの二人、そろそろ結婚を考えているはずですわ。」
『茶羅の言う通りだよ。少なくとも蓮は今それを考えている。だから、天音様にそんな話をしたわけで。もちろん、天音様は反対などしていない。玲奈さんは訳あって漣家の養子となっただけで、漣家に住んでいるわけでもないし、漣家についてもそう詳しく知っているわけでもない。』


「それはそれとしても、色々と考えると、晴さんはともかく、蓮と燿さんが結婚するまでは、周防家との繋がりは隠しておきたいわね・・・。」
「僕、蓮たちには幸せになってほしいなぁ。」
橙晴はポツリと呟く。


『僕もそう思う。でも、もちろん、二人は慶一殿に、蓮には玲奈さんが居るという話をしたんだよね?』
「もちろん。橙晴様には雪乃様が居るという理由で橙晴様を諦めたのですもの。だから、その話をすれば諦めると思って・・・。」


「でも、やっぱり蓮様の笛が欲しいみたいなの。周防家は笛の音が財産みたいな家だから。」
『なるほど。』
頷きながらも青藍は考える。


確かに、笛の音は周防家にとって大切だろう。
毎年霊王様に笛の音を献上するくらいなのだから。
当主はそれに値する音色を奏でることが出来なければならない。
でも・・・。
「なんだか、慶一殿らしくないですねぇ。」
考えていたことを橙晴に言われて、青藍は頷く。


『やっぱり橙晴もそう思うよね?』
「えぇ。慶一殿は好いている者同士を引き離すほど、強引な方ではありません。色々と仕掛けて楽しむ方ではありますが。それに、蓮が欲しいならもっと前にそういう話があっていいはずです。梨花と実花のどちらかと婚約させるなりして蓮を捕まえておくことも可能だった。」


『そうだよね。それを考え付かない慶一殿ではない。だとすると、他に何か目的があるのかもしれないよ?何か、覚えはない?』
「他に・・・?」
「何かあったかしら・・・?」
青藍の言葉に二人の姫は首を傾げる。


「そうですわ。それに、男性が当主になることが慣例だと言っても、別に女性が当主になってもいい訳ですよね?」
茶羅は首を傾げながら青藍に問う。


『うん。慣例であって掟ではない。それに、慶一殿が性別に拘るようにも思えない。まして周防家は笛の音が宝なのだから。笛を奏でるのに性別はさほど関係ないはず。まぁ、当主会議が楼閣で行われることもあるから、男性の方が行きやすいだろうけど。楼閣という場所が密談には丁度いいからね。会議中は姐さんたちも部屋に入れないし。まぁ、牡丹さんが居るくらいで。』


「あ・・・。ねぇ、実花。」
梨花は何かを思い出したように言う。
「なぁに?」
「お父様、この間、漣家に行ったらしいわ。」
「そういえば、そんなことを言っていたわね・・・。」


「なんだか、楽しげじゃなかった?」
「言われてみれば、そうだったかも。あの顔は、青藍様と深冬様の関係を楽しんでいる時の顔だった。」
『あ、やっぱり僕らのこと、楽しんでいるんだ・・・。』
青藍は苦笑する。


「周防家と漣家で人の恋路を見て楽しんでいるって事は、蓮と玲奈さんよね?涼音様は既にご結婚されているもの。」
茶羅は考えるように言う。
『それはつまり・・・梨花姫と実花姫を使って蓮と玲奈さんをけしかけている?』


「確かにその可能性もありますね。ですが、それなら梨花と実花を使う必要がない。他にいくらでも手がありますから。二人を使うとしても二人に事情を話さないのは不自然ですし。」
『うん。でも、周防家の次期当主が居ないというのも事実だ。いずれにしろ、周防家の当主になる者を決めなければならない。』


「なんとなく、蓮と玲奈さんの関係と、周防家の次期当主の話は繋がっていると思うわ。・・・もしかしたら、この二つが絡み合って今の状況なんじゃないかしら?」
茶羅の言葉に青藍と橙晴は何か気付いたように目を見開く。

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