色彩
■ 1.周防家の姫

怪我から復帰して一か月ほどが経ち、青藍はあっという間に調子を取り戻していた。
鈍った体もすでに以前の状態へ戻っている。
当主の仕事の大半を引き継ぎ、引き継ぎの儀式の準備も順調に進んでいた。
また、深冬との関係も上手くいっている。
とはいっても、青藍は未だに煩悩と戦っているのだが。


ちなみに、雪乃は朽木家に半分住んでいる状態となった。
朽木家の面々はずっと邸に居ればいいと言っているのだが、それが他の姫に漏れたりするといろいろと大変だという理由からである。
それはそれとして、青藍は頭を抱えていた。
事の起こりは一週間前。
周防家の梨花、実花が茶羅と共に六番隊の執務室にやってきたことから始まる。


一週間前。
「青藍様!」
「助けてください!」
やってくるなり二人は青藍に詰め寄った。
『梨花姫に実花姫。一体どうしたの?』
そんな二人に目を白黒させながら、青藍は首を傾げる。


「「蓮様が!」」
『え、蓮?』
「このままでは蓮様が周防家の当主になってしまうの!」
「私たちは二人とも女だから!」
「「それで、私たちのどちらかが、蓮の奥さんになるって。そんなのおかしいわ!!!」」


『・・・え?ちょっと待って、二人とも。・・・ねぇ、橙晴、それは、たぶん、すごく拙いよね?』
二人の話を理解したのか、青藍は蟀谷を押さえる。
「まぁ、そうですね。色々と拙いです。」
『だよね。それは大変だ。それに、蓮は・・・。』
「そうですね。蓮には玲奈さんが居ますよね・・・?」


『うん・・・。蓮が玲奈さんを貰うのは天音様も構わないと言っていたけれど、蓮が周防の当主になるのは拙いよね・・・。それに、この様子だと二人ともその気はないみたいだし。』


「当たり前よ!蓮様には玲奈さまがいらっしゃるのよ!?」
「漣家の天音様だって女性なのに、何故、私たちのどちらかが当主になるのでは駄目なのかしら。そのために二人で笛の稽古も死ぬほどやってきたのに!」
「まぁ、二人とも落ち着きなさい。兄様だってもう少し話を聞かないと状況が上手く飲み込めないはずよ。」
怒りをあらわにする二人を宥めるように茶羅が言った。


『このこと、蓮は知っているの?』
「まだ知らないと思うわ。」
「私たちだってさっきお父様に聞かされたのだもの。」
『そうか・・・。』
そう言って青藍は考えるように黙る。


『・・・あー、そうか。だから父上は橙晴の話を慶一殿にしていたのか。』
「兄様?どういうことです?」
『うん。まぁ、ちょっと場所を変えよう。恋次さん!僕と橙晴はちょっと席を外します。用があるなら連絡してください。』
「おう。」


五人がやってきたのは六番隊の応接室である。
それぞれが腰を落ち着けたところで橙晴が口を開いた。
「それで、兄様、何故父上は慶一殿に僕の話をしたのです?」
『うん。知ってのとおり、慶一殿には梨花姫と実花姫という姫だけで、息子が居ない。でも、周防家は一般的な貴族のように男性が当主となるのが慣例だ。』
「まぁ、そうですね。」


『そこで、橙晴を姫二人のどちらかと結婚させて、周防の当主にしようとしたのだろう。梨花姫と実花姫は茶羅と仲が良いし、僕ら二人が毛嫌いすることなく付き合っている数少ない姫だ。普通の貴族ならそれだけで結婚することも珍しくない。』
「・・・なるほど。それで父上は、慶一殿に僕が雪乃の見合いを潰しているという話をしたわけですね。」
『そういうことだろうね。』


「それで、蓮が次の候補になった。蓮は君たちの従兄弟だし、年もそう離れてはいない。燿さんでなくて蓮なのは蓮が三番隊の第三席だからだ。席官にもなれば貴族との付き合いがあってもおかしくはない。実際席官になると貴族の方から見合いの話が来たりするし。」


「それから、笛よ。蓮様、瑛二叔父様から笛を習っているの。その笛の音が私たちよりも美しいのよ。瑛二叔父様は実をいうとお父様よりも笛の上手なの。」
「あの弥彦様が認める腕前なのよ。」
『そういえば、前に弥彦様がそんなことを言っていたね。』


そして、弥彦様の笛は、霊王様のお気に入りだ。
あの笛の音で舞う舞は呼吸をするように自然なものになる。
漣家と周防家の関わりがそれなりにあるのも、舞と笛の相性がいいから。
その弥彦様が認める腕前とは、相当な上手なのだろう。
青藍は内心でそんなことを考える。

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