色彩
■ 幸せの報告

「ん・・・。」
私の膝を枕にして眠っていた咲夜が身じろいで、ゆっくりと瞼が開かれる。
ぼんやりとした視線がこちらに向けられて、目が合うと、彼女はふわりと笑う。
その様子に口元を緩めれば、蒼純様、と呟かれて、少々複雑な気分になった。


どうやら彼女は未だ夢の中に居るらしい。
咲夜にとって我が父の存在は大きい。
時折、私と父、どちらが彼女にとって大きな存在なのだろうかと不安になることさえある。
それ程、彼女にとって父の存在は大きかった。


幼い頃に見た彼女と父の姿は、本当の兄妹のようで、二人の世界があって、寂しさを感じる半面、羨ましかった。
そんなことを思いながら、彼女を起こそうと手を伸ばす。
彼女はその手を嬉しげに掴んで、擦り寄った。


・・・父も、彼女のこんな姿を知っていたのだろうか。
父は母を大切にしており、咲夜は愛や恋といった観念がなかったため、父と彼女の関係を疑ったことなどない。
そもそも、そんな関係であれば、私の目の前で膝枕などしないだろう。
それ故、二人の関係は兄妹というのが一番相応しく、それ以外の関係を疑う余地もない。


・・・それを解っていても、面白くない。
そう思ってしまう自分に内心苦笑した。


「・・・蒼純様。白哉が、とても強くなりました。それで、白哉が私の夫になって、青藍、橙晴、茶羅を産みました。ルキアという可愛い妹も居て、もちろん銀嶺お爺様も居て、今の咲夜の周りは、とても賑やかなのです。」


微笑みと共に言われた言葉から、彼女は夢の中に居ることを自覚しているらしい。
夢の中にまで父が出て来るのか・・・。
呆れを通り越して笑いが出てくる。


「蒼純様に、見て頂きたかった。いや、蒼純様ならば、見守ってくださっているのでしょうね。蒼純様には、たくさん、たくさん心配をかけたから。・・・苦しくて、苦しくて、泣きたいことも、寂しいことも、死にたいことすらありました。蒼純様はそんな私に気付いていましたね。」
泣きそうに微笑む咲夜の頬を撫でれば、気持ちよさげに瞳を閉じる。


「世界を恨んで、壊したいと思ったこともあります。世界を壊しかけたこともあります。・・・でも、皆がそれを止めてくれました。私にはたくさんの仲間が居るのだと、皆が教えてくれました。愛する者が居て、多くの友が居る。私は今、とても幸せです。」
そう言った彼女の表情はこれ以上ないくらい柔らかなもので、その美しさに思わず見惚れてしまう。


「・・・・・・ただ、蒼純様の最期を見届けることが出来なかったことが、心残りです。その上、長い間、白哉を一人にしてしまいました。ごめんなさい、蒼純様。」
瞼を閉じた咲夜の目尻から、涙が一筋零れ落ちた。
「今までも、これから先も、ずっとそれを悔やむでしょう。昔の私ならば、貴方を追って自ら命を捨てたかもしれません。もし、貴方に白哉という息子が居なければ。」
彼女の言葉に、思わず口元が緩む。


「闇の中に居る私に光を見せてくれたのは蒼純様で、闇の中から救い上げてくれたのは白哉です。その白哉を私に届けてくださったのは、蒼純様で。蒼純様には何度お礼を言っても足りないから、私は、たくさん、たくさん笑います。私は、本当に、幸せだから。だから、見ていてください、ね・・・。」


「・・・あれだけ話しておきながら、まだ夢の中とは。」
すう、と再び眠りについた咲夜に、白哉は苦笑した。
心の中の父もまた苦笑を漏らしていて、困った奴だ、と咲夜の頭を撫でる。


無意識に擦り寄ってくる彼女が愛おしい。
きっと、父もこの姿を知っているのだ。
彼女はそれほど我が父に心を許している。
その事実は変わらず、やはり面白くはない。


「・・・だが、幸せだという報告をしているのならば、父の夢を見ることは許してやる。」


咲夜が目を覚ましたならば、久しぶりに霊廟に足を運ぼう。
父だけでなく、先祖代々の朽木家の者たちに、私も咲夜も幸せであることを見せつけてやろう。
彼等はそれに呆れ顔でため息を吐くことだろう。
それからきっと、笑うのだ。
それだけ幸せであることが、事実なのだから。



2016.10.19
寝惚けた咲夜さんと、咲夜さんの夢に蒼純様が出てくるのは複雑な白哉さん。
白哉さんはこの後、霊廟にて、目を覚ましている咲夜さんの口から寝惚けていた時と同じ言葉を聞いて笑ってしまうのだと思います。
浄化編の少し後くらいのイメージです。


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