色彩
■ 42.まだまだ

青藍が再び目を覚ますと、どうやら夕刻になっているようだった。
するとそれを見計らったように、卯ノ花が姿を見せる。
「青藍。」
卯ノ花はそう言って青藍の顔を覗き込んだ。


『烈先生・・・。』
「具合はどうですか?」
問われて青藍は体が軽くなっているのを感じる。
そして、ゆっくりと起き上がった。
卯ノ花はそれを手伝うように、背中に手を当てる。


『どうやら、睦月たちの薬が、効いたようです。体がずいぶん軽くなりました。』
「それは良かった。みなさん、心配していたようですから。」
言って卯ノ花は病室を見渡す。
その視線を追うと、白哉、咲夜、ルキア、橙晴、茶羅、深冬、雪乃、睦月、師走が眠っていた。


『ふふ。昔から、誰かが怪我をすると、何時もこうなのです。目が覚めたときに、皆がそばに居るのは心強いものですね。』
「えぇ。」
『烈先生にも、ご心配をおかけしました。いつもありがとうございます。』
青藍は微笑みながら卯ノ花を見上げる。


「礼には及びませんよ。」
そんな青藍に卯ノ花は笑みを返す。
それを見た青藍は、卯ノ花の右手を両手で包み込んだ。
「青藍?」


『烈先生のこの手が、いつも僕らを支えてくれます。僕らを救ってくださいます。僕は、この手が大好きです。小さなころから、ずっと。』
そう言って見上げた青藍の頭を卯ノ花は抱きかかえるように抱きしめた。
『烈先生?』
腕の中で首を傾げる青藍に卯ノ花は笑みを零す。


「・・・大きく、強く、なりましたね。貴方を取り上げたことが、昨日のことのように思い出されるのに。」
卯ノ花はしみじみという。
『ふふ。まだまだです。僕はまだ、今ここに居る誰にも敵いません。十四郎殿や春水殿、他の隊長、副隊長たち、他にも色々と。まだまだ、敵いません。』
言いながら青藍は苦笑する。


「ふふ。・・・それは、お互い様というものです。」
『え?』
「そう思っているのは、貴方だけではないということですよ。」
そう言って卯ノ花は青藍を解放すると、何処からか毛布を取り出して眠って居る面々にかけ始める。


「・・・朽木隊長も、咲夜さんも、これほど無防備なのは、珍しいことです。」
『それは・・・確かにそうですね。ここは邸ではありませんし。』
「睦月も師走も、本来は警戒心が強い。彼らの生まれがそうさせるのでしょうが。他の皆も他人に寝顔を見せるような人たちではありません。私は、怪我や病気で寝込んでいる時以外で、朽木隊長や咲夜さんの寝顔を見たことなど、ありません。今日、初めて見ました。」
寄り添うように眠る二人を卯ノ花は微笑ましげに見つめる。


「それなのに、貴方が此処に居るだけで、これほど無防備になってしまう。それは、間違いなく貴方の力でしょう。」
『そう、でしょうか・・・。』
「そうですよ。そして、それは私には出来ないことです。つまり、私も、まだまだ、ということです。」
卯ノ花は楽しげに言う。


『・・・ふふ。それじゃあ、僕がまだまだなのは、仕方ないですねぇ。』
青藍は柔らかく言う。
「ふふ。えぇ。ですから、気負わず、ゆっくりでいいのです。当主になってからも。」
そう言われて、青藍は内心苦笑する。
全て、見抜かれているのだ。
僕の不安も、恐怖も、焦りも。


『ご存知でしたか・・・。』
「えぇ。私は貴方の味方ですよ。」
『はい。やっぱり、僕、烈先生のこと、大好きです。』
青藍はいたずらっ子のようにいう。
「あら、それは嬉しい。」
卯ノ花もまたそれに悪戯に微笑んだ。
そして目を合わせて可笑しそうに笑いあったのだった。

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