色彩
■ 37.守るということ

咲夜と白刃に連れて行かれる青藍を不安げに見送って、深冬は白哉に頭を下げた。
「白哉様、申し訳、ありません。」
その姿に白哉は軽く目を見開いて、それから、その頭を撫でた。
「頭をあげろ。そなたのせいではない。」


「ですが、青藍は、私を庇って、あんな、怪我を・・・。私が、弱いせいだ・・・。」
顔をあげた深冬はそこまで言って唇をかみしめる。
その瞳に再び涙が溢れ始める。
それを隠すように深冬は俯いた。


「・・・深冬。顔をあげろ。」
白哉に言われて、深冬はゆっくりとその顔を上げる。
その瞳から涙が零れ落ちた。
それを見て、白哉は深冬の両頬をつまむ。


「いひゃ!?」
そんな声を上げて、深冬は混乱したように白哉を見上げた。
「私たちは、死神なのだ。そなたとて、死んでいった仲間が居よう。そなた自身も、命の危険を感じたことがあるだろう。」
言われて深冬は小さく頷く。


「死を見る覚悟、命を懸ける覚悟、そういう覚悟を、そなたもしているだろう。」
深冬は再び頷く。
「青藍とて同じだ。もちろん私も。だが、みすみす死ぬつもりなどない。死なせるつもりもない。それ故、互いに守り合うのだ。今回は青藍がそなたを守っただけのこと。私も咲夜もそなたを責めるつもりなどない。それは解るな?」
「・・・ひゃい。」


「そして、何をどう守るかは、そなた次第だ。戦いの中で盾になるばかりが、守るということではない。青藍はそれを望まないだろう。もちろん、それは私がそなたに望むことでもない。」
白哉の言葉に深冬は首を傾げる。


「そなたは青藍のそばに居ると決めたのだろう?それは何のためだ?青藍を一人にしないためではないのか?青藍の重荷を共に背負うためではないのか?」
白哉は静かに問う。
「ひゃい。」


「それは、青藍を守っていることになるのだ。そなたは青藍の心を守っているのだ。青藍はそなたを信じているのだぞ。」
「・・・。」
白哉の言葉に、深冬は考えるように沈黙する。
それをみて、白哉は深冬の頬から指を放した。


「故に、青藍がそなたを助けたのは、青藍自身のためでもあるのだ。そなたは青藍の妻となるのだろう。そして、死神だ。・・・今、そなたがやるべきことは何だ?私に謝ることでも、泣くことでもないはずだ。」
両頬に手を添えて、白哉は深冬に目線を合わせる。


「青藍は、必ず助かる。」
「・・・はい。」
「死神としても、朽木家当主の妻になる者としても、そう簡単に取り乱してはならぬ。今一度聞こう。今、そなたがやるべきことは何だ?」


「青藍を信じて、この場に残り、この場の始末をつけることです。」
白哉の問いに深冬はしっかりと答える。
「よし。では、行くぞ、深冬。付いて来い。」
「はい。」
白哉の言葉に頷くと、深冬は涙を拭って、彼の背中を追いかけたのだった。


それから三日。
この三日間、青藍は傷からくる発熱に魘されていた。
どうやら虚の毒にあたったらしい。
朦朧とした意識の中で、どこか冷静にそんなことを考える。


途中、誰かが、手を握ったり、名前を呼んだりしている気がするのだが、返事をすることはもちろん、目を開けることすらできなかった。
眠ったら眠ったで、暗闇の中を彷徨う夢だったり、壊れゆく世界を見つめる夢だったり、すべてを失う夢だったり、そんな悪夢が青藍を襲う。


それが嫌で、目を開けたいのだが、体が睡眠を欲しているらしく、それも出来ない。
苦しくて、寒くて、ただただ、孤独感に襲われる。
時折光や温もりを感じてそちらに向かおうとするのだが、気が付くと眠っている、ということを繰り返しているのだった。


その翌日。
青藍は漸く瞼を開けた。
「青藍!?」
ずっと彼に付き添っていた深冬は、慌てて卯ノ花を呼びに行く。
駆けつけた卯ノ花は青藍に声を掛ける。


「青藍。私の声が聞こえていますか?私のことが解りますか?」
青藍はその声に頷くように一つ瞬きをする。
「そうですか。それは良かった。少し、診察させてもらいますよ。」
これにも青藍は一つ瞬きをかえす。
それを確認した卯ノ花は、あちらこちら診察して、少しほっとしたように、深冬に笑みを向けた。


「まだ熱がありますが、山は越えたようです。青藍、よく頑張りましたね。」
卯ノ花はそう言って青藍の頭を撫でる。
「・・・深冬さん、こちらへ。」
呼ばれて深冬は青藍のベッドへと近寄る。


「青藍・・・?」
深冬は恐る恐る声を掛ける。
「この方が誰だか、解りますね?」
その問いに、青藍は瞬きを返す。
そして苦しげに口を開いた。


『・・・み、ふゆ。』
小さく掠れた声ではあるが、彼はしっかりと深冬の名を呼ぶ。
「青藍!」
それを聞いて、深冬は青藍の手を握り締めて涙ぐんだ。
その手に安心したように、青藍は再び眠りにつく。
それから青藍が魘されることはなかった。

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