色彩
■ 30.感謝

『貴女に何があったのか、僕は全て知っています。・・・霊妃様が、全て僕に見せてくださいました。』
「すべ、て、見た・・・?」
目を丸くした咲夜の問いに、青藍は頷きを返す。


『はい。貴女が漣家に居た間のことを、全て。きっと、父上や天音様さえ知らないことも見たのでしょう。貴女の目を通して霊妃様は全て見ておられたようですから。その記憶を僕に見せてくれたのです。これが母上の闇だと言って。それを見て、僕はただ茫然と涙を流すことしか出来ませんでした。母上、辛かったのですね。泣くことも出来なかったのですね。貴女は何度も死のうとした。何度も自分を傷つけた。自分を、世界を恨んだ。』
青藍は苦しげに言う。


『でも、母上は今ここに居ます。僕は笑っている母上が好きです。きっと、父上や十四郎殿たちだって、母上が笑うだけで嬉しい。皆が母上の苦悩を引き受けたのは、母上に笑っていてほしいからです。そう思ったから、母上を引き受けたのです。』


「・・・君は、君に重荷を背負わせた私を、恨んでいないというのか。」
『当たり前です。何を恨む必要があるのですか。あれだけ苦しんだ過去がありながら、母上は父上を愛し、僕らを愛してくれました。僕らに愛をくれました。いつも朗らかに笑っていてくれました。傍で見守ってくれました。もちろん、今だってそうです。』
青藍は柔らかく微笑む。


『だから僕は、今こうしてここに居ることが出来る。霊妃様の愛し子であることや、朽木家の当主となることで僕は孤独です。その孤独に押しつぶされそうになります。何故自分がこのように生まれたのかと、恨みそうになることだってあります。正直に言えば、とても苦しいし、怖いです。』
言いながら青藍は目を伏せる。


『でも、母上が愛してくれている。他の皆だって、僕に愛を与えてくれます。だから僕はこうして前を向くことが出来るのです。全てを受け止める覚悟が出来るのです。僕が背負うものもまた、大きいものです。でも、僕は一人ではありません。母上や父上や、他にもたくさんの心強い味方が居ます。この重荷を一緒に背負ってくれる者が居ます。だから僕は、母上を恨むことなどできません。恨む必要もない。』
青藍の言葉に咲夜はさらにきつく抱き着いた。


『僕は、母上が大好きです。僕を生んでくれてありがとうございます。母上が生まれたことにだって、僕は感謝します。苦難を乗り越えてきたことだって、それを一緒に乗り越えてくれた人たちにだって、感謝しています。母上が、あの苦しみの中で死ぬことがなくて、本当に、良かった・・・。』
青藍がそういうと、咲夜は小さく震え、嗚咽を漏らす。


「・・・青藍。」
咲夜は涙を流しながら、顔をあげて青藍を見つめる。
『はい。』
「私は君の重荷だとばかり思っていた。でも、そうではないのだな?私は君の力になれているのだな?」
『もちろんです。』


「私のために苦しんで、それでも、私の力になってくれるのだな?」
『はい。でも、それはお互い様です。僕が母上のことで苦しむように、母上は僕のことで苦しんでくれているのですから。苦しいことは分け合えばいいのです。だから、僕は、当主になって、身動きが取れなくなったとしても、それで苦しい思いをしても、大丈夫です。僕を皆が支えてくれます。』


「だから、君は逃げないというのだな?」
『はい。』
青藍は真っ直ぐに咲夜を見返して、しっかりと頷いた。

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