色彩
■ 29.逃げません

ガラリ。
勢いよく隊主室の扉が開かれて、皆の視線がそちらに集まる。
「・・・居た。」
普段より低い声に、雪乃は思わずびくりと震えた。


『あ、橙晴。お疲れ様。よくここが分かったね。』
「兄様も父上も匿っていましたね・・・?」
言いながら橙晴は二人を睨みつける。
『え、僕は父上に匿われただけだよ?』
「私は雪乃に仕事を手伝ってもらっただけだ。」
その視線を意に介さず、二人はけろりと答えた。


「それは、匿ったというんですよ・・・。まさかここに居るとは思いませんでした。地下道まで探してしまったではありませんか。」
『あはは。それはお疲れ様。僕だってあの後母上たちに追いかけられて大変だったんだから。今捕まっているけど。』
「それは兄様が僕らに隠し事をしているからです。」


『父上と安曇様にはお話ししました。』
「なんですか。そうやっていつも兄様は父上と秘密の話ばかりだ・・・。」
橙晴は不満げに言う。
『だって父上の目は誤魔化せないし。』
「兄様ばかり狡いです。・・・はぁ。疲れた。」
言いながら橙晴は座り込む。


『ふふ。さて、橙晴もそろったようだし。皆にご報告したいことがあります。父上と安曇様、深冬、それから加賀美君にはすでに伝えてありますが。』
言って青藍は白哉を見る。
白哉はそれに頷いた。


『・・・来春、私、朽木青藍が、朽木家の当主を引き継がせていただくことになりました。』
凛と言い放った青藍に白哉を除いて目を丸くする。
「・・・そうか。決めたのか。」
咲夜は力なく言う。


『はい。事情を知る皆からすれば、複雑なのでしょうね。朽木家当主というだけでもとても大きなものなのに、僕はその上、霊妃様のことまで手を尽くさなければならない。父上も母上も、その重荷から逃げてもいいと、ずっと、僕の答えを待ってくれていました。』
青藍は目を伏せながら言う。


『でも、僕は逃げません。』
そういう青藍の瞳は真っ直ぐに前を見据えていた。
『僕は苦しむでしょう。僕が苦しむことでみんなを苦しませるでしょう。でも、それでも僕はこの道を選びます。』


「では、僕は兄様のために働きましょう。兄様との約束も果たしましょう。兄様に当主になれと言ったのは僕ですからね。それに・・・兄様が苦しむことで、自分が苦しむことになるのは覚悟の上です。それを覚悟したうえで、僕は兄様に当主になれと言いました。兄様が一人になることが無いように。」
橙晴もまた真っ直ぐに前を見据える。


「私だって、そのくらいの覚悟はありますわ。兄様がその道を選んでも支えられるようにこれまで精進してきたのですから。」
茶羅は青藍を真っ直ぐに見つめて迷いなくいう。
『うん。二人とも頼りにしているよ。』


「・・・私にできることは少ない。だが、私も青藍の力になろう。話を聞くことぐらいは出来る。何でも話してくれていい。一人で抱える必要などないのだから。」
『はい。ルキア姉さま。』
「私だって、貴方に巻き込まれる覚悟はできているのよ。」
『ふふ。うん。ありがとう、雪乃。』


「青藍・・・。」
咲夜はそう言いながら青藍に抱き着く。
青藍はそれを困ったように微笑みながら受け止めた。
『母上。』
「・・・すまない、青藍。」
咲夜の呟きに、青藍は首を横に振る。


『いいえ。母上が謝ることなどありません。』
「だが!私のせいで、君に、余分な重荷を背負わせることに、なってしまったのだ・・・。」
『それは違いますよ。僕が自分で背負うと決めたのです。』


「でも、君に、霊妃を背負わせるのは、私だ。私が、朽木家に来たからだ・・・。」
青藍に抱き着きながら、咲夜は苦しげだ。
『そんなことを言わないでください。母上が父上と結ばれなければ僕はここには居ません。もちろん、橙晴に茶羅だって。』
青藍は言い聞かせるように咲夜の背中を撫でる。


「私は、自分が化け物だと解っていながら、それでも、白哉から、離れることが出来なかった・・・。君だけじゃない。私は、白哉にも橙晴にも茶羅にも、ルキアにだって、重荷を背負わせてしまったのだ。その上に、私の幸せがあることを、私は知っている。」
咲夜は泣きそうな声でいう。


『それでいいのです。母上が一人で抱えるには、重いものです。僕らはそれを分けてもらった。でもそれは、僕らの意思で背負ったのです。父上だって、母上と結ばれることで、将来、どれほどの苦悩があるか、解った上で、母上を受け入れたのですよ。母上は幸せになってもいいのです。母上の幸せは、僕らの幸せです。その幸せのためならば、貴女の苦悩も引き受けましょう。』
「青藍・・・。」

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