色彩
■ 24.言い逃げ

「・・・深冬。早くそれを撤去してくれ。そいつは歩く公害だ。」
「解りました。ほら、行くぞ、青藍。これ以上邪魔するな。隊士たちも困っている。」
そう言って深冬は青藍の手を引く。
『はぁい。また遊びに来るよ、お義兄さん。』
歩き出しながら青藍は楽しげに言う。


「お前・・・。覚えていろよ。」
『ふふ。雪乃たちに話せるものなら話せばいいよ。そんなことをすれば君は雷に打たれて死ぬけどね。ついでに加賀美邸が燃えちゃうけどね。』
「ちゃっかり脅すな!!・・・あー!!もう、お前本当に腹立つ!!!帰れ。二度と顔を見せるな!!」
豪紀は叫ぶ。


『ふふ。それは無理でしょ。ていうか、加賀美君、普段の冷静さはどうしたの?いつも仏頂面じゃない。』
「喧しい!」
『ストレス溜まっているんだねぇ。大変だ。』


「誰のせいだよ!?」
『え、知らない。あ、真子さん?あの人、普段適当だもんねぇ。』
青藍は惚けたように言う。
「違うわ!!!お前だよ!お前!!!」


「・・・はぁ。青藍、いい加減遊ぶのはやめろ。」
『いや、つい、ね。加賀美君ってばからかい甲斐があるから。』
「そうだとしてもやめろ。本当に公害になるぞ、青藍。」
『はぁい。』
深冬の言葉に青藍は詰まらなさそうに返事をする。


『あ、そうそう。君に伝えることがあるんだった。そう言えば、深冬にも言ってなかったね。』
「「何だ?」」
『・・・来春、僕は朽木家当主となる。』
「「・・・。」」
真面目な顔で言った青藍に二人は黙り込む。


『とりあえず伝えておくよ。これからも加賀美君には存分に働いて貰うからね。あと、それ以降になるけど、深冬を貰うことになるから、覚悟しておくように。じゃ、またね。どうやら母上がこちらに向かっているようだ。まだ捕まるわけにはいかない。』
そういうと青藍は深冬を抱える。


「・・・はぁ!?どういうことか説明しろ、この馬鹿!!!!」
青藍の言葉を理解した豪紀は叫ぶが、すでに青藍の姿は消えている。
「彼奴・・・。後で覚えておけよ・・・。」
その後、そのやり取りを見ていた五番隊の者たちが彼を慰めたのは言うに及ばない。


「・・・青藍。」
青藍に抱えられて移動している深冬が口を開く。
『ん?』
「一体いつまでこうしているのだ?」
『うーん・・・。捕まるまで?』
「それは一体いつなのだ・・・。」
青藍の答えに深冬は呆れ顔だ。
『まぁ、いいじゃない。』


「それに・・・本当に当主になるのか?」
深冬は不安げに青藍を見上げる。
『うん。ずっと父上を待たせていたからね。でも、君のお蔭で覚悟が出来た。来春、僕は朽木家の当主を引き継ぐ。』
「・・・そうか。」
深冬は小さく青藍の着物を掴む。


『うん。君がそばに居てくれるというのならば、僕は何だって出来る。君にも暗い道を歩かせることになるだろうけど、一緒に、歩いてくれるかい?』
「当たり前だ。私にだって、その覚悟がある。」
深冬は青藍を真っ直ぐに見上げた。


『ありがとう。僕が当主になった後、時期を見て君と祝言を挙げるから。』
その言葉に深冬は恥ずかしそうに頷く。
そんな深冬に青藍は微笑んだ。
『さて、とりあえず母上から逃げなくてはね。君は十三番隊に居てね。これから雨乾堂に行く。』
「そうか。私は別にいいが・・・。」


『ふふ。深冬、母上たちに何か聞かれても、秘密にしておくんだよ?』
「何をだ?」
『あの桜の木の下でのことに決まっているじゃないか。あれは二人の秘密です。』
「!!!」
青藍の言葉に色々と思い出したのか、深冬は顔を赤くする。


『真っ赤。可愛いなぁ。』
「だ、あれは、その・・・。」
『うん。だから秘密。解った?母上たちには僕が適当に隠しつつ話しておくから。』
「・・・あぁ。」
『あはは。可愛い。・・・好きだよ、深冬。』
青藍はそう言って深冬に口づける。
「・・・それは、狡いぞ。」


『そんなの、君はとっくに知っているでしょ?・・・深冬は言ってくれないの?』
青藍は甘えるように言う。
その声が甘くて、深冬は、やっぱり青藍は狡い、と内心で呟く。
『ねぇ、深冬。』
甘く名を呼ばれて、深冬は小さく震える。
これでは何も考えられない。
その声も、瞳も、表情もすべてが甘いのだから。


「・・・すき、だ。」
自然とそんな言葉が口から零れ落ちた。
言ってから理解するが、時すでに遅し。
青藍は蕩けるように微笑む。
それを見た深冬は赤くなって、その顔を手で隠した。
『ふは。可愛い。ありがと、深冬。』
それを見て青藍は、深冬を抱きしめたのだった。

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