色彩
■ 19.報告

『失礼します、父上。』
仕事に戻ってきた青藍は、隊主室に入る。
「青藍か。」
「青藍?深冬と一緒ではないのか?」
言いながら安曇は長椅子から起き上がる。


『安曇様?何故ここに?』
「十三番隊に行ったら、咲夜が深冬は青藍に貸し出し中だというからだ。だから白哉の所に来たのに、相手をしてくれぬ。」
首を傾げた青藍に、安曇は不満げに言った。
『あはは。そうでしたか。』


「青藍が帰ってきたということは、深冬の貸し出しは終わったのだな?」
『えぇ。まぁ。』
「では、私は深冬の所に行くかな。白哉はどうしたって遊んでくれぬのだ。」
安曇は恨めしげに白哉を見る。
「五月蝿いぞ。年寄りはその辺で昼寝でもしていろと言ったではないか。」
白哉は面倒そうに書類を見ながら言う。


『あはは。父上、僕、少しお話があるのですが。』
「・・・そうか。聞こう。」
白哉はすぐに書類を置いて長椅子に移動する。
「何故青藍の話はすぐに聞くのだ!不公平だ!」
「五月蝿いと言っているだろう。」


『・・・ちょうどいいので、安曇様も僕の話を聞いてもらえますか?』
「何だ。まだ悩んでいるのか。話せ話せ。この年寄りが暇つぶしに聞いてやろう。」
『ありがとうございます。』
「それで、今度は何を悩んでおるのだ?」
安曇は楽しげに聞く。


『悩み・・・というか、ご報告があります。』
「ほう?何か進展があったのか?」
『まぁ、そうですね。』
「それは深冬のことか?」
『はい。・・・漸く、深冬が本物の婚約者になりました。』
青藍は柔らかく笑う。
そんな青藍に、二人は目を丸くした。


「それは・・・深冬に思いを伝えたということか?」
『はい。僕が彼女を縛ったことも全て話しました。それでも・・・それでも、深冬はそばに居てくれるそうです。』


「・・・そうか。」
白哉は嬉しげな青藍を柔らかな眼差しで見つめる。
「そうか・・・。深冬が、そなたの想いに、応えたのか・・・。」
安曇は感慨深げに呟く。
『はい。』


「・・・父親とは辛いものだな、白哉。娘を他の男にやらねばならんのだから。」
「そうだな。茶羅はまだ私の元に居るが、あれもいつかはどこかに行ってしまうのだろう。」
「それにしても・・・相手が青藍か・・・。いや、解ってはいたが・・・。」


「私は娘が一人増えるという訳だな。」
白哉は勝ち誇ったように言う。
「何!?それは・・・狡いぞ・・・。いや、でも逆に考えると、青藍が私の息子になるのか。それはそれで・・・面白いか・・・?」
言いながら安曇は首をひねる。


『そうか。安曇様は僕の義父になるのですね。』
青藍は今気が付いたというような表情をする。
「そなたは一体私を何だと思っておるのだ・・・。私は相談窓口ではないのだぞ。」
安曇は拗ねたように言う。
『あはは。すみません。いつもいつも相談に乗ってもらっているので、つい、そのことを忘れそうになります。』


「・・・まぁ、よい。深冬が選んだのならば、それでいいのだ。あの子は、そなたの苦悩を知って、重圧を知っても、きっと、乗り越えることが出来るだろう。強くて、優しい、私と美央の自慢の娘だからな。」
『ふふ。はい。』


「幸せにしてやれとは言わぬ。そなたの道が険しいことは私も知っているからな。幸せばかりではない、辛く苦しく暗い道を、歩むのだから。・・・だが、大切にしてやってくれ。共に歩むと決めたのならば。」
『はい。お約束します。』


「青藍。」
『はい、父上。』
「その報告に来たということは、覚悟を決めたと受け取っていいのだな?」
白哉はそう言って青藍をひたと見つめる。
青藍もその視線を受け止めた。
そして片膝をついて首を垂れる。


『・・・長らくお待たせいたしまして、申し訳ございません。第二十八代朽木家当主朽木白哉様。朽木家当主としてのお勤めを、私、朽木青藍が、お引継ぎいたしたく存じます。』
「その覚悟に偽りはないな?」
『ありません。誇り高き朽木家を、その誇り高き魂を、受け継がせて頂きます。覚悟を持って、当主の責を全う致しましょう。大切な者と共に。』


「では、それを許す。来春、引き継ぎの儀を行う。その後、祝言を挙げることになるだろう。これ以後その覚悟を貫き通すように。」
『はい。』

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