色彩
■ 18.告白A

「・・・私も、青藍が、大好きだ。」
涙を隠すように、瞳を閉じて、深冬は言う。


「青藍は、私を真っ直ぐに、見てくれる。私を私として、見てくれる。その瞳が私は好きだ。意地悪をするときもあるが、青藍は、いつも私を助けてくれる。こんな私のそばに居てくれる。青藍は、私が、初めて頭を撫でられた時、どれほど嬉しかったか、知らないだろう?」
目を開けた深冬は、小さく微笑む。


「誰も私にあんなことはしなかった。目を合わせてくれる人も居なかった。私は、いつも一人で、友人だって居なかったのだ。家の中でも一人ぼっちだった。でも、それは仕方がないと諦めていたのだ。私は、人とは違うから。でも、青藍のお蔭で、今、私には、家族も、友人もいる。人と違うことは悪いことではないのだと、青藍が教えてくれた。ありがとう、青藍。いつもそばに居てくれて、ありがとう。大好きだ。」
そう言って微笑んだ深冬の瞳から涙が零れ落ちた。


『ふふ。深冬の涙は、綺麗だなぁ。』
そんなことを言いながら、青藍は指で涙をぬぐう。
そのまま深冬の頬に手を添えた。
『ねぇ、深冬。僕は君に触れてもいい?』
「・・・うん。」
青藍の問いに、深冬は小さく頷く。
それに微笑んで、青藍は深冬の額に唇を落とした。


次は瞼に。
その次は頬に。
深冬はそれをくすぐったそうに受け入れる。
そして最後に、その唇に口付けたのだった。
ゆっくりとその唇を離すと、青藍は微笑む。


『深冬、顔が赤い。』
「そういう青藍だって、赤いぞ。」
『仕方ないでしょ。僕は婚約したときから、待っていたんだから。いつだって君の前では余裕なんかないんだ。』
言いながら青藍は深冬を膝の上にのせる。


『本音を言えば、これ以上のことだってしたい。僕だって男だからね。』
青藍はそう言って深冬を見つめる。
「それ、は・・・。」
見つめられて深冬は困ったように目を泳がせる。


『ふふ。そんなに困らないでよ。・・・すぐじゃなくていいんだ。心の準備の要ることだというのは、解っているから。君だけじゃなくて、僕も。』
「青藍も?」
『そうだよ。・・・実は僕、自分から女性に触れることが出来ないんだ。さっき、自分から触れた女の子は深冬が初めてだと言ったでしょう?』


「え・・・?でも・・・。」
目を丸くした深冬に、青藍は目を伏せる。
『ずっと、家族と烈先生以外の女性には、自分から触れることは出来なかった。普通に触れられることも駄目な時期があって、それは今は平気になったんだけど、まだ、自分から触れることは出来ない。だから、初めて会った日に君の手を握った時、本当に、すごく不思議だった。』


「そうなった理由を、聞いてもいいか?」
『・・・昔、誘拐されたことがあって。その時、知らない女性が、僕の体に触れた。その行為に名をつけるとしたら、強姦未遂、といったところだろう。父上が助けに来てくれなければ、未遂では終わらなかったと思う。今でも思い出すと、体が震える。』


思い返せば、確かに貴族の席で青藍が自分から女性に触れている姿を見たことはない。
女性陣に囲まれると、表情が微かに硬くなるのも知っている。
青藍が女性に対して厳しいのは茶羅や雪乃様からも聞いているし、それを目の当たりにしたことはあったけれど、そんな理由があったとは。
深冬はそんなことを思いながら、小さく震える青藍の手を握りしめる。


『ありがとう、深冬。・・・死神になってからもね、女性隊士が危険な目に遭ったとき、彼女の腕を引けば良かったのに、それが出来なくて。代わりに恋次さんが助けたのだけれど、それから父上は、僕の班に女性隊士を入れなくなった。隊長副隊長のほとんどは僕の事情を知っているから、何かと手助けしてくれている。本当に、迷惑をかけていると思う。』
深冬が握りしめた青藍の手に力が入れられる。
青藍の自責の念が伝わってくるようだった。


『そのくらい、女性が駄目で。格好悪いのだけれど、恋をするのも、触れ合いたいと思うのも、全部、深冬が初めてなんだ。体は勝手に動きそうになるのだけれど、やっぱり心が追いつかないかもしれないから、ゆっくり、待つよ。』
青藍はそう言って困ったように微笑む。


『だから、急がなくても良いけれど、心の準備はしておいてね。現実的な話をすると、僕には、将来跡継ぎが必要だから。』
「・・・解った。」
『うん。・・・さて、深冬。跡継ぎ云々の話が先になってしまったけれど、それはまた後でいいとして、もう一度、君に伝えるよ。』


「何だ?」
『僕は、君が好きだ。だから、改めて君に結婚を申し込む。』
深冬を真っ直ぐに見つめて、真面目な顔で青藍は言う。


『僕のそばに居ることで、君が苦しむこともあるだろう。僕は時期に朽木家の当主となる。それが君にとっても重荷になることだろう。僕の歩む道は決して明るいばかりの道ではないし、暗く険しいことの方が多いだろう。それでも、僕は君にそばに居て欲しい。君と共に、歩みたい。僕は、君が欲しい。だから、僕と結婚してください。』
青藍の言葉に深冬は小さく震える。


「・・・はい。」
そう言って微笑みながら頷いた深冬に、青藍は口付けを落とす。
『ふふ。ありがと。愛しているよ、深冬。僕の暁・・・。』
そんな二人を祝福するように桜の花びらが降り注いだのだった。

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