色彩
■ 17.告白@

「私も・・・私も何も聞かなかった。最近の青藍の様子が、何だか変なことも気が付いていたのだ。ため息が多い上に、すぐに目をそらす。どこか苦しそうで、それは、私のせいだということにも気が付いていた。」
静かにそう言った深冬に、青藍は首を横に振る。


『僕が苦しかったのは自分のせいだ。君を僕の我が儘で縛ってしまったから。何も伝えることすらしていないのに、綺麗になっていく君に、自分を止めることが出来なくなりそうだったから。でも、それでは、君を傷つける。君に嫌われるのは嫌で、だから、僕が我慢すればいいと思って・・・。』


「だから、様子が変だったのか?」
『うん・・・。こんな僕を知ったら、君が僕の手の届かないところに行ってしまいそうで。君に拒絶されたらと思うと、怖くて・・・。』
「青藍。」
彼の言葉に、深冬は青藍の前へと移動して、青藍の顔を上げさせる。
その顔が泣きそうで、深冬もまた、泣きそうになった。


「私は、今、青藍の目の前に居る。あの日、私が婚約に頷いたのは、私が、青藍のそばに居たかったからだ。この婚約を選んだのは、私だ。青藍は、私に選ばせてくれたのだから。だから、私はそんなことで青藍を嫌いになったりはしない。青藍のそばを離れたりしない。」
深冬の言葉に、青藍は目を丸くする。


「私だって、婚約者がどういうものか解っている。青藍が私に何かしても、私は青藍から離れたくない。だから、青藍が苦しむ必要などないのだ。」
私が、あの時婚約に頷いたのは、青藍を守りたかったからだ。
青藍を苦しめたくなかったから、この婚約に頷いた。
私を守るために危険を冒して欲しくはなかったから。


そして何より、青藍のそばに居たかった。
青藍が私と一緒に居たいと思ってくれているのなら尚更。
・・・そうか。
私は、あの時、いや、きっともっと前から、青藍のことが、好きだったのだ。
好きだから、離れたくなかった。
好きだから、守りたかった。


私は、青藍が、好き。
感情の名前を知ってしまえば、呑みこむのは簡単だった。
泣きそうな青藍が、愛おしい。


「もう一度言うぞ。この婚約を選んだのは、私だ。今、あの時と同じことを言われても、私は、頷く。」
青藍は、紅色の瞳が愛しげに自分を見ていることに気付く。


・・・この子は、僕を許すというのか。
こんなに狡い僕を。
すべてを解った上で、僕を受け入れるというのか。
こんな僕の傍に居てくれるのか。


『君は、僕が狡いことをしたと知っても、僕のそばに居てくれるの・・・?』
「私が青藍のそばに居たいのだ。」
『僕は、嘘つきで、狡くて、優しくないし、隠し事が多いし、すぐに誤魔化すよ?』
「そんなもの、とっくに知っている。」


『僕は、君が思っている以上に悪い奴だよ?』
「それでも私は青藍のそばに居ることを選んだのだ。私が今ここに居るのは、私の意思だ。他の誰でもない、私が、そうすると、決めたのだ。」
真っ直ぐに青藍の瞳を見て言った深冬を、青藍は思わず抱き寄せる。


『・・・深冬、大好き。』
深冬の首筋にすり寄って、青藍は呟く。
その声が甘くて、いつもとは違って、深冬は少し震える。


『多分、君を初めて見たときから。君の声が鈴のようで、銀色の髪が、輝いていて、何より、その紅色の瞳が強くて、真っ直ぐで、凛としていて、こんなに綺麗な子が居るのかと思った。』
青藍は言いながら深冬を抱きしめる腕を強くする。


『初めてだった。自分から手を伸ばして触れた女の子は。今でも、君だけ。あの日、君の手を握った時の感触は、今でも覚えている。不思議で、でも、温かくて、優しくて。君ともっと話してみたいと思った。また会えることを、期待した。』
青藍はぽつり、ぽつり、と、零すように言葉を紡ぐ。


『それで、話してみたら、君はとても強い子で、僕は、そんな君が眩しくて。君のそばに居たいと思った。僕の傍に居て欲しいと思った。それが恋なのだと、自覚した。世界が、変わって見えた。色々なことに押し潰されそうになって、逃げようとしていたけれど、君のことを考えると暗闇の中に光が差した。それで、君がいるなら、どんな道でも歩けると、思ったんだ・・・。』


そこまで言って、青藍は腕を緩めて、深冬と目を合わせる。
そして額を深冬のそれにこつんとくっつけた。
今までにも何度か同じことをしたのに、お互いの吐息が触れ合うほど近くて、どくり、と心臓が脈打つ。


『僕は、深冬を、愛しているんだ・・・。』
その声も、瞳も、全部が甘くて、深冬は自分の顔が熱くなるのを感じた。
じわり、と涙が込み上げる。

[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -