色彩
■ 16.本当の気持ち

『気付いていると思うけど、格好悪いことに、僕は深冬に何も伝えられていない。それなのに皆を騙して、婚約者面でこんなところに出てきて、そんな僕を君は許せないだろうけど、自分が何をしたのかは、僕が一番解っているつもりだ。』


「・・・そうですか。それじゃあ、俺が出る幕はありませんね。」
青藍の言葉が本当だと感じたのか、男はため息を吐くように言う。
『うん。ごめん。』
「謝らないでください。もともとダメ元でした。まさか、朽木三席に聞かれるとは思いませんでしたが。」


『僕だって、最後まで出てくるつもりはなかったのだけれどね・・・。あんなことを言われたら、もう、駄目だよね・・・。』
青藍は顔を赤くしつつも苦笑する。
「三席もそんな一面があるのですねぇ。・・・では、俺は邪魔者なので、これで失礼します。」
男はそう言うと、青藍に背を向けて去って行ったのだった。


その姿を見送って、青藍は深冬の口を塞いでいる手を下ろした。
「・・・青藍、何故ここに居るのだ。」
深冬が気まずげに言う。
『十四郎殿に用があって、その帰りだったんだ。近くに深冬の霊圧があると思って、顔を見ようとやってきたら、君が告白されていて・・・。』


「盗み聞きだ。」
『あはは。ごめんね。聞くつもりはなかったんだ。・・・それより、君に話したいことがある。』
「・・・あぁ。」
『でも、ここで言うのは何となく嫌だから、移動するね。』
「うわ!?」
言いながら青藍は深冬を抱き上げる。


『白刃。』
「なぁに?」
呼ばれて白刃は姿を見せる。
『母上に、ちょっと深冬を借りるって伝えておいで。』
「解った!」
そう頷くと、白刃は駈け出していく。


「勝手に私を借りるな・・・。」
『あはは。ごめんね。でも、もう借りちゃった。・・・さて、行くよ。ちゃんと捕まっていてね。』
そう言って青藍は屋根の上に飛び上がったのだった。


『・・・ふぅ。ここでいいか。』
そういいながら青藍は深冬を降ろす。
そこは、婚約を決めた桜の木の下だ。
ただあの時と違うのは、桜が満開に咲き誇っていることである。


「何故あんな道を知っているのだ・・・。」
深冬は呆れたように言う。
此処へ来るまでに、青藍は隠れ鬼でもするようにこっそりと来たのだ。
途中、隊舎の中を通ったり、裏庭を横切ったり、屋根裏に侵入したり、お蔭で誰にも遭遇することなく、ここまでやってきたのだった。


『あはは。小さい頃から出入りしているからね。十三番隊は探検済みなんだ。多分、深冬よりも隊舎に詳しいよ。』
青藍は楽しげに言う。
「青藍は咲夜様にそっくりだ。咲夜様もそう言ってどこからでも現れる。」
『ふふ。まぁ、とりあえず座ろうか。』
「あぁ。」


桜の木の下に並んで座って、暫く無言になる。
春の風が桜の木を揺らし、花びらを舞い散らせていく。


『・・・ねぇ、深冬。』
青藍は静かに口を開いた。
「何だ?」
『僕はここで、君に婚約者にならないか、と、聞いたでしょう?君を守るためにはそれが一番いいから、と。』
「あぁ。」


『あれ、本当は違うんだ。』
青藍はそう言って俯く。
『あの時、僕は、もう、決めていたんだ。だから、君が頷けば、もう、手放せないことも解っていた。僕の歩む道は、さっき君が言ったとおり、暗い道だ。その道に、君を引きずり込んでしまうことも解っていた・・・。』
「そうか。」


『でも、それでも、欲しかった。』
子どもの様に言う青藍に、深冬は彼を見つめる。
その横顔は泣きそうだった。


『君は、僕の意図に気が付かずに、僕の婚約者となった。それからは、ずっと、君を騙しているようで、苦しかった。でも、それでも、君を手放すことは出来なかった。かといって、それを君に話して、君に嫌われたらと思うと、それも出来なかった。僕は、自分が怖い。自分が化け物であることを知っているから。でも、もっと、怖いのは、君が僕から離れていくことだ。だから、今まで何も話せなかったんだ・・・。』

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