色彩
■ 15.羨ましい

「・・・それは違う。」
「何が違うというのです?」
「全部だ。・・・青藍は私を縛ったりはしない。むしろ、私が青藍を縛っているのだ。私のせいで青藍は私を婚約者にしたのだ。私は・・・私のこの赤い瞳はそう言うものなのだ。」
深冬はどこか苦しげだ。


「だから、最近の青藍は苦しいのだ。ため息ばかりで、苦しそうだ。私が、青藍を苦しめている・・・。でも、私は青藍から離れられないのだ。離れることなど、考えられないのだ。私のせいで青藍が苦しんでいても、それで私が苦しくても、そばに、居たいのだ。」
深冬は泣きそうに言った。


それを聞いた青藍は、思わずその場にへたり込む。
それは・・・。
そんなことを言われてしまったら、僕は・・・。


深冬の言葉に男は目を丸くして、それから自嘲するように笑った。
「それは・・・加賀美さんが、朽木三席を男として好きだということですね・・・。」
「・・・好き?」
「そんな顔をして、そんな言葉を口にしているのに、自覚がないのですね。」
男の笑みは痛々しい。


「貴女にそれほど想われている朽木三席が羨ましい。それでなくても、あの人は何でも持っているというのに。」
「・・・それは・・・違うと思う。」
「え?」
深冬の言葉に男は首を傾げる。


「青藍は、地位も霊力も権力もあるし、あの容姿だ。でも、青藍は色々なものを背負っているから、我が儘は言えないのだ。私は、青藍が、何かを欲しいと言ったことを、一度も聞いたことがない。」
そう言って深冬は目を伏せる。


「一度もだ。私はいつも与えられてばかりなのに、青藍は何も欲しいと言わない。朽木家に生まれたことは、きっと、恵まれたことなのだろう。でも、その分、とても大きな重圧があるのだ。それを全て背負って、我が儘ひとつ言えずに、居るのだ・・・。」
そこまで言って深冬は目を上げる。


「だから、青藍はいつも一人だ。私などでは想像できないくらいに。青藍は、一人で暗闇を歩いている。それも一歩間違えば奈落の底に落ちるような道を。本当は、青藍は何も持っていないのだ。私は、そんな青藍を支えたくて・・・それで・・・。」
言いながら、深冬は納得する。


私は、青藍が好きなのだ。
青藍が好きだから触れたいし、声が聴きたいし、目を合わせたいし、力になりたい。
私以外を見ている青藍を見るのは面白くないし、雪乃様にばかり相談する青藍を見ているともやもやする。


これは、嫉妬というのではなかったか。
いつか、隊士たちの恋の話を聞いた時に、誰かがそんなことを言っていた。
どうしようもなく苦しくて、気持ちがぐちゃぐちゃになって、でも、離れられない。
青藍を一人にしたくない。
一人で苦しまないでほしい。


「だから・・・つまり・・・私は、さっき、貴方が言ったとおり・・・む!?」
そこまで言った時、深冬は突然口を塞がれる。
『それ以上は、僕に先に聞かせてくれると嬉しいなぁ。』
「!?」
そんな声とともに後ろから抱きしめられて、深冬は目を丸くした。


『・・・君、ごめんね。君の言うとおり、僕は深冬を縛った。何も知らないこの子を縛って、自分のものにしようとした。それがどれほど狡いことか解っていながら。・・・でも、僕が欲しいと言えるのは、欲しいと言っていいのは、これ一つなんだ。』
青藍は男を真っ直ぐに見つめる。


『君の言うとおり僕は何でも持っているけど、でも、その分、僕は何も欲してはいけない。それが、僕の役目だからだ。僕は恵まれている分、責任を負わなければならない。だから深冬がさっき言ったように、僕から何かを欲しいということはない。ただ一つを除いて。』


「・・・それが、加賀美さんなのですね。」
『うん。だから、これだけは手放せない。この子を縛った僕を最低というのなら、それでいい。それは事実だから。でも、何を言われようと、僕はこの子を手放すつもりはない。それで、この子を苦しませることになっても。』
青藍は凛と言い放つ。


「・・・最初から・・・加賀美さんを・・・?」
『そう。たぶん、初めて見たときから。』
「はは・・・。何ですか、それ。正気じゃないですよ。だって、婚約したとき、加賀美さんは・・・。」


『僕だって悩んださ。正気じゃないのは百も承知だ。でも、この子がお見合いをして、そのまま攫われそうになって、自分の気持ちを自覚した。そうしたら、もう、駄目だった・・・。』
呻くように、苦しげに、青藍はいう。

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