色彩
■ 14.隊舎裏

「・・・兄様って、本当に馬鹿ですよね。そうしていると、本当に逃げられますよ。」
『それが解っているから大変なのだよ。』
言って青藍は大きなため息を吐く。
「まぁ、逃げたところで兄様が捕まえるのでしょうけど。あーあ、可哀そうに。兄様みたいなのに捕まるなんて、災難ですねぇ。」


『それ、君にも言えることだからね?自由に泳がせていると見せかけて実はすでに包囲網の中なのだから。』
「最初から捕まえて繋いでしまう方が質悪いですよ。」
『うわぁ、それは言わないで。僕が一番それを解っているのだから。あぁ、心が痛い。痛すぎて死にたくなる。』


「そのまま死ねばいいのに。本当に、面倒な人ですねぇ。付き合っていられません。僕は仕事に戻ります。」
酷いぞ、橙晴。
これで僕が本当に死んだらどうしてくれるんだ。


・・・解っているさ。
あんなことを躊躇いなくするぐらいだ。
深冬は僕を嫌ってはいない。
雪乃に嫉妬していることからも、僕を思ってくれているのだろう。
でも、それは、本当に僕と同じものだろうか。
青藍は、その気持ちが自分と同じものだとは思えないのだった。


「おい、青藍。ちょっと十三番隊に・・・って、何してんだ?」
執務室に入ってきた恋次は青藍が机に突っ伏しているのを見て、首を傾げる。
『・・・何でもありませんよ。何ですか、お仕事ですか?』
青藍はけだるげに起き上がる。


「あぁ。・・・お前、大丈夫か?なんか疲れてねぇ?」
そんな青藍の様子に、恋次は心配するような顔をする。
『そんなことは、ありません。ちょっと悩みがあるだけです。』
「悩み?お前が?」


『僕にだって悩みぐらいありますよ。一体、僕を何だと思っているのですか・・・。』
意外そうに聞き返した恋次に青藍は拗ねたように言う。
「そうか。まぁ、悩みすぎんなよ。禿るぞ。」
『それは嫌です・・・。』


「橙晴、こいつ、本当に大丈夫か?」
恋次は訝しげに聞く。
「大丈夫ですよ。ただのへたれですから。自分を押さえるので一杯一杯なんです。」
『五月蝿いよ、橙晴。人のこと言えないくせに。』


「まぁ、調子が悪い訳じゃないならいいけどな。ほら、青藍、これ、浮竹隊長に届けてこい。来週の合同演習の予定表だ。」
青藍は差し出された書類を受け取る。


『あぁ、そんなこともありましたね。六番隊の席官で行くのは僕と恋次さんでしたっけ。』
「そうだ。頼んだぞ。」
『はぁい。行ってきまーす。』


あ、深冬の霊圧だ。
書類を浮竹に渡した青藍が、雨乾堂から出て十三番隊の隊舎を歩いていると、近くに深冬の霊圧を感じる。
顔を見ていこうと青藍はそちらに向かった。


あれ?
こっちは隊舎裏だよね?
何でこんなところに居るのかな?
そんなことを思いつつも、青藍は足を進める。
あ、居た。


『深、ふ・・・ゆ・・・。』
深冬の姿を見つけ、青藍は声を掛けようとするが、その声は小さくなっていく。
深冬のほかにもう一人、男が居たのだった。
それを見た青藍は咄嗟に霊圧を消して隠れる。


「・・・俺、加賀美さんのことが、好きです。」
そんな声が聞こえてきて、青藍はため息を吐く。
・・・来なければよかった。
深冬は断るのだろうか。


「・・・気持ちはありがたいが、私には朽木青藍という婚約者がいる。だから、貴方の気持ちには応えられない。」
そんな声が聞こえてきて、青藍はひとまず胸をなでおろす。
「それは、解っています。でも、朽木三席は見合い避けのために加賀美さんと婚約したと、そんな噂がずっとあります。」


男の言葉に、青藍はどきりとする。
それは、半分事実だからだ。
「それはただの噂だ。」
「では、政略的なものなのですか?」
「それも違う。」


「朽木家が無理に貴女を婚約者にしたのではないのですか?婚約当時、貴女は幼かったのに。」
そんなこと、僕が一番解っている・・・。
青藍は内心で呟く。
「それも違う。私は自分で決めたのだ。」
「では・・・では、貴女は朽木三席が好きだというのですか?だから婚約したと?」


「それは・・・。」
言われて深冬は口籠る。
「朽木三席が貴女をどう思っているかなど、俺にだって解ります。いつも大切にして、貴女を守っている。貴女を傍に置いている。でも、それは、朽木三席が貴女を傍に置きたいからそうしているのではありませんか?朽木三席は貴女のことが好きだから。」


「青藍が、私を、好き・・・?」
深冬は首を傾げる。
「そうです。朽木三席は貴女が好きなのでしょう。見ていれば解ります。貴女を女性として見ていることぐらい。だから貴方を傍に置いている。最初の意図はどうであれ、婚約者として貴女を縛っている。」
男の言葉に青藍は思わず固まった。

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