色彩
■ 13.やさぐれ兄弟

『というわけなので、皆様方、帰りましょうか。あ、ここは僕が払うよ。今お店に居る人全部だ。騒がせてご迷惑をお掛けしたからね。』
青藍の言葉に店内から拍手が湧き上がる。


『このくらいご迷惑をお掛けしたので当然のことにございます。皆さまはごゆっくりお楽しみください。あぁ、でも、先ほどからの私どもの会話はなるべく聞かなかったことにしていただけると幸いです。』
言って青藍はにっこりと微笑む。


「・・・兄様、胡散臭いですよ。それなのに皆が騙されるのですから、兄様は詐欺師にでもなった方がいいと思います。」
『酷いなぁ。僕は騙したりなんてしないよ?』
「嘘を吐くのは騙すと言わないのかしら?」
『世の中には嘘も方便という言葉があるのだよ、茶羅。』
「貴方の場合は嘘ばかりじゃない。貴方、詐欺師が天職なんじゃないの?」


『雪乃までそんなことを言う。僕は世界のために身を粉にして朝から晩まで働いているのだから、他人を騙している暇などないのだよ。』
「「嘘ばっかり。」」
「そうですよ。お昼寝の時間とか言っている人の言葉じゃありません。」
『ちぇ。頑張っているのは本当じゃないか・・・。』


「大体、そんなに勝手に家のお金を使っていいものなのですか?」
『まさか。これは僕のポケットマネーだよ。自分で稼いだ分を使う機会があまりないからね。邸が数件買えるくらいには余裕があるのさ。君だってそうでしょう?』
「まぁ、兄様ほどではありませんが。」
『僕だって父上ほどじゃない。さぁ、皆さん、帰りますよ。』
青藍のそんな呼びかけに皆はようやく立ち上がったのだった。


その翌日。
『はぁ・・・。』
そんな深いため息を吐きながら、青藍は机に突っ伏した。
「兄様、さっきから鬱陶しいですよ。仕事してください。」
そんな青藍を見て、橙晴は冷ややかに言う。


『だって・・・。聞いてよ、橙晴。あの子ったら、覚えてないんだよ・・・。』
言って青藍は再びため息を吐く。
「・・・それは、ご愁傷様です。」
青藍の言葉を理解した橙晴は憐れみの視線を向ける。
『僕の緊張を返してよ・・・。大体、あれで自覚がないとか、何なのさ。いったい僕をどうしたいのか・・・。』


「別にいいじゃないですか。兄様はいつも周りを振り回しているのですから、たまには振り回されればいいんです。」
『そんなぁ・・・。』
「と、いうより、あそこまでされてまだ躊躇うんですか?それは、本当にへたれというのですよ。」
橙晴はあっさりと言い捨てる。


『う・・・。』
「全く、どうしてこう、兄様は面倒なのでしょうね・・・。兄様は余裕でしょうに。」
『余裕なんてあるものか。』
「その割に昨日は何の反応もしませんでしたけど。」


『それは、あんなに人が居るところで取り乱すわけには行かないでしょう。僕は三席で、朽木家次期当主なのだから。・・・僕だって、色々ギリギリなんだよ。なのに、それなのに、どうしてああいうことするかなぁ。もう。』
言いながら青藍は机にへばりつく。


「・・・その辺を気にするなら、今も気にした方がいいと思いますけどね。隊士たちが注目していますよ。」
そんな青藍を橙晴は冷たく見つめる。


『別にいいよ。だってどこに行っても、僕、注目されてしまうもの。その辺の自覚はあるよ。それに、六番隊の隊士たちは僕のこと、知っているからいいんだよ。その辺の隊士に聞いてみるといいよ。僕を優しいという人なんて居ないから。どうせ僕は優しくないよ。鬼でも悪魔でも人でなしでも何とでも言えばいいよ。』


「兄様、やさぐれていますねぇ。」
ぐちぐちという青藍に橙晴は呆れたように言う。
『何さ。昨日の橙晴だってやさぐれていたじゃないか。だから、あんなに責めるようなことを言っていたんじゃないか。』


「それは・・・まぁ、そうですけど。ちょっと、いらっとしたもので。」
『それ、八つ当たりっていうんだよ。ほんと、父上にそっくり。』
「五月蝿いですね。いいんですよ。どうせいつかは解ることなのですから。それが昨日だったというだけです。」


『はぁ・・・。どうやってあの子を自覚させようかな・・・。』
青藍は悩ましげに頬杖をつく。
その憂いのある表情に隊士たちの視線が釘付けになっているのだが、気にしないらしい。
「がぶっと噛みついてみたらいいのでは?」
『あはは。君がやるなら僕もやるよ。』
「それは嫌です。」


『ほら、君だって出来ないでしょう。だからこんなに悩んでいるわけだよ。そんなことをすれば僕に近寄ってこなくなる。怖がらせてしまう。それは嫌だ。』
「じゃあ、さっさと言えばいいじゃないですか。面倒臭い。」
『それが出来たら苦労しない。それで逃げられたりしたら、僕、立ち直れない。』
面倒そうな橙晴に、青藍は情けない声を出す。

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