色彩
■ 12.お互い様

『睦月は僕らのことをよく見抜くけど、それはお互い様なんだよ。』
「まぁ、色々な壁があるから、睦月が一番前途多難だよね。」
「ふふ。それはそれで、どうやってその壁を超えるのか、見物じゃない。」
「そうね。あの睦月さんが、どこまでやるのか、楽しみだわ。」


「我が弟は大変苦労するらしい。ま、振られたら慰めてやるよ。」
「お前の慰めなんかいらんわ。・・・俺は、そういうのはいいんだよ。」
「ルキアが笑ってれば充分ってか?健気だねぇ。」
からかいを含んだ言葉に、睦月はじろりと師走を睨みつける。


「五月蝿い、馬鹿師走。俺は朽木家の世話で手一杯なんだよ!問題児しか居ないんだぞ!」
「まぁ、そうだな。特にそこの次期当主がなぁ・・・。」
『自覚はしてるけど、僕だけではどうしようもないことばかりなんだよねぇ。』
「「治す気もないだろうが。」」
『よくお分かりで。』


「・・・大体なぁ、お前ら、人の事言えんのか?そういうことは自分の問題が解決してから言え。」
『あはは。それはねぇ、橙晴?』
「えぇ。それは・・・。」
『「お互い様だよね。」』


「・・・。」
笑顔で言った二人に、睦月は黙り込む。
「これじゃ、お前も分が悪いな。」
「・・・はぁ。昔は可愛かったのにな・・・。何故こんな風に育ってしまったのだろうか。」
睦月は疲れたように言う。


『あはは。今だって可愛がってくれているくせに。僕らが怪我すると飛んでくるんだから。』
「そうそう。昔から睦月は僕らが転んだだけで飛んでくるくらいには過保護だよねぇ。」
「私なんか最初鋏すら持たせてもらえなかったのよ?」
そんな睦月に三人はニヤニヤとしながら言う。


『あはは!何それ。睦月、どれだけ心配なの。』
「お前ら五月蝿い!ほんとに黙れ!」
『まぁ、いいじゃないの。そんな睦月を頼りにしているっていう話でしょ?』
言って青藍は笑う。
「そうです。睦月が居るから僕らは無茶が出来るんだよ。」
「そうね。なんだかんだで父上も信頼しているんだから。」


『母上だって、君のことを信頼しているからこそ、僕らの目付けにしたんじゃないか。そもそも母上が睦月を家に呼んだわけだけど。少なくとも僕は、睦月のお蔭でほとんど誘拐されずに済んだよ?』
「お前は昔から目を付けられ易い奴だったよな・・・。今だって狙われてんだぞ、お前・・・。」


『知っているさ。だから僕、その辺でお昼寝しなくなったんじゃないの。目が覚めたら両手足拘束されていました、とかもう勘弁だよ。大体、なんで僕が狙われるかなぁ。』
「普段、お前は無駄に愛想がいい上に、阿呆な振りをしているからな。放蕩息子とでも思われてんだろ。後、咲夜さんに似た、その無駄に綺麗な顔のせいだ。」


『顔は・・・こう生まれちゃったのだから仕方ないじゃないか。それに、確かに普段は適当だけど、僕、ちゃんとしている時もあるのになぁ。』
そういう青藍は不満げだ。
「そうやって騙しているから、お前なんだよ。橙晴はご当主に似ているから隙が無いように見える。それに、茶羅には常に護衛が居ることが知れ渡っている。なのにお前は隙だらけに見える。お前の周りに居る人たちに隙がないからそれが余計目立つ。」


『そうだとしても、僕を大人しくさせるより、橙晴や茶羅を大人しくさせる方が簡単なのにねぇ。力だけなら、二人よりも僕の方が強いことは周知の事実なのに。ま、そんなことをすれば、僕と父上と母上が全力で相手を潰しにかかるけど。そのために色々と無茶をするだろうということも自覚している。』


「そこは自覚してんのかよ・・・。俺は毎回寿命が縮む。お前ら全員無茶する傾向があるが、青藍の無茶は生命に関わるんだぞ・・・。」
睦月は疲れたように言う。
『あはは。それは善処しまーす。・・・さて、じゃあ、帰ろうか。目立ってしまったし。』


「そういう兄様が一番目立っていますけどね。」
『えぇ?そうかな。』
「さっき堂々と唇を奪われていた人が何を言っているのやら。」
言いながら橙晴はチラリと青藍を見る。
『僕のせいじゃないもーん。深冬っていう酔っ払いのせいだもーん。』
それに気付いているのかいないのか、青藍は拗ねたように言う。


「あーあ。兄様ばっかりずるいなぁ。深冬相手にはへたれなのに。」
『五月蝿いな。あれは母上の入れ知恵のせいなんだから。後で父上に言ってお仕置きしてもらおう。』
「そうだ。僕はその父上を問い詰めなければならないんでした。父上ったら、意外と口を滑らせるのですから。」


『あ、そうなの?』
「えぇ。だから雪乃があんなに愚痴っていたのです。」
『なるほど。そういうことだったのか。』
「どこまで話したかによっては、僕、本当に父上を恨みます。」
『橙晴、そんなに悪いことやったの?』
「まさか。兄様よりは数倍ましですよ。」


『あはは。僕だって別に悪いことはしていないはずだけど。まぁ、二人で父上と母上にちょっと悪戯を仕掛けようか。いつもいつも、あの人たちの代わりに僕らが怒られている件もあるし。』
青藍は悪戯っぽく言う。


「それは名案です。あの人たちは少し痛い目を見ればいいんだ。山本の爺のお説教がどれほど長いか知っていて僕らに押し付けているのですから。それにあの二人の喧嘩の後処理がどれだけ大変か解っていないようですからね。僕らはあちらこちらに頭を下げに行っているというのに。」


『だよねぇ。ま、それは帰ってからでいいや。僕と深冬はお昼寝の時間だ。ほら、深冬が寝ている。無防備だよねぇ。可愛いけど。』
言われて橙晴は深冬を見る。
確かにすやすやと眠っている。

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