色彩
■ 11.羊と狼

『さて、そろそろ移動する時間だけれど、このまま移動するかい?それとも帰るかい?姫様方。』
青藍は固まっている姫たちに声を掛ける。
「聞くだけ無駄でしょう。わざわざ茶羅や雪乃や深冬を使って僕らをここまで引きずり出したのに、何の収穫もないのですから。」
橙晴は面倒そうに言う。


『あはは。橙晴ってば辛辣。僕らは今、一応彼女らの護衛ということになっているのだけれど。』
「父上は遊んで来いとおっしゃっていました。それに、兄様よりは優しいです。」
『そう?わざわざこんなところまで出てきたのだから十分優しいと思うけど。』
「深冬が居るから来ただけでしょう。」
『そういう橙晴こそ、雪乃が居るから来たのだろう?』


「・・・はぁ。青藍兄様も橙晴もその辺にしてくださる?それ以上は苛めと一緒よ?容赦のない性格がばれてもいいのかしら?」
茶羅は呆れたように言う。
梨花と実花はこの状況を楽しんでいるらしい。


『僕は別に隠しているつもりはないよ?周りが勝手に優しい僕を作り出しているだけさ。まぁそれを利用している節はあるけど。』
「僕だって、顔が父上に似ている分、笑うと周りが勝手に優しいと認識するだけだよ。父上は基本無表情だから。」


『父上は別に優しくないわけじゃないのにね。』
「そうですよ。兄様の百倍は優しいです。」
『嫌だなぁ。それじゃあ、僕が優しくないみたいだ。僕、ちゃんと優しいよ?』


「今更そんなことを言って、誰が信じるのかしら。どう見ても羊の皮を被った狼じゃない。深冬も雪乃も可愛そうに。そのうちがぶっと食べられちゃうんだから。」
茶羅は憐れむように二人を見た。
「・・・。」
その言葉に雪乃は彼らに疑いの視線を向ける。


「そう心配しなくても、大丈夫だよ、雪乃。」
「いや、問題なのは青藍よ。まさか、手を出したりはしていないでしょうね?」
『信用ないなぁ。そんなことはしていません。そんなものは後でいいの。その前にやることが沢山あるからね。』
「えぇ。だからこんなに長期戦なのに。全く、気の長いことです。」
『そうだね。褒めて欲しいくらいだよ。』


「狼なのは認めるのね。」
『知らないの、茶羅?男は皆狼だよ?だから茶羅も気を付けてね。茶羅こそがぶっと食べられちゃうよ。』
「私は大丈夫ですわ。兄様という化け物が私の後ろに居る限り、相当な命知らずでなければそんなことにはならないもの。」


『酷いなぁ。化け物呼ばわりだなんて。』
そういいつつも青藍は微笑んでいる。
「そんな兄様や橙晴が味方なんですもの。何が相手だって怖くありませんわ。だって、そんな時は守ってくださるのでしょう?」
茶羅もにっこりと微笑む。


『あはは。可愛い妹のためになら手を貸しましょう。ね、橙晴?』
「えぇ。もちろん。」
「当然、睦月と師走も助けてくれるのよね?」
「ははは。当たり前だろ。助けなかったら俺はご当主に抹殺される。」
「そうだな。御嬢さんに傷一つつけただけで死にかけるんだから。」
師走は言いながら顔を青褪めさせる。


『へぇ。師走、そんな目に遭ったことがあるの?』
「ご当主が直々に、俺を的にしてくれましたけど。」
「うわぁ、それは大変だ。父上、外さないもの。」
『あはは!容赦ないなぁ。さすが父上だ。』


「笑い事じゃあないでしょうよ・・・。俺、三日間寝込んだんですけど。」
「僕らの父上なのだから、仕方ないよ。」
「そうね。父上は兄様と橙晴を止められるくらいには容赦がないのだから。」


『そうそう。睦月も気を付けたほうがいいよ。』
「俺?」
楽しげな青藍に睦月は首を傾げる。
『うん。だって睦月、ルキア姉さまと仲良しすぎるもの。父上に恨まれているよ。』
「・・・そうか?」
睦月は言いながら目をそらす。


「そうだよ。毎週のようにルキア姉さまと甘味処に行っているくせに。」
『睦月が自覚していないとは思えないなぁ。』
「へぇ。お前がなぁ。」
「へぇ。あの睦月さんがねぇ。」
「な、なんだよ・・・。」


『別に僕は反対しないけどね。』
「僕も、睦月なら邪魔はしないよ。」
「私も睦月なら成り行きを見守るだけにしてあげるわ。」
「・・・何の話だろうな。俺は何も知らないぞ。」
楽しげな彼らに睦月はそっぽを向く。

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