色彩
■ 9.悪魔

『・・・橙晴。あまり雪乃を苛めるものじゃないよ。』
「兄様・・・。」
止めに入った青藍に、橙晴は不満げな視線を向ける。
『それ以上は駄目だ。雪乃が怖がっているでしょう。』


「でも・・・。」
『それ以上やって雪乃が僕に泣きついてきたら、僕は君の敵になる。雪乃は僕の大切な友人だからね。』
「・・・。」


『僕が敵に回れば、君は欲しいものを手に入れられない。僕は君以上の化け物だから、君の張った蜘蛛の糸を掃うなど簡単なことだよ。すでに捕えているというのならば、少しくらい時間をかけたっていいと思うけど。それとも、そこまで余裕がないのかな?』
そう言って微笑む青藍を橙晴は見つめる。


「・・・はぁ。兄様にそう言われたら、僕は何も出来ないじゃないですか。」
橙晴は拗ねたように言う。
『そうかな。』
「そうでしょう。嫌ですよ、兄様を敵に回すなんて。茶羅と組んでも太刀打ちできません。」


『ふふ。そうでもないよ。』
「大体、兄様には深冬が居るじゃないですか。兄様ばかりずるいです。」
『あはは。まぁまぁ。これ以上やれば、僕以上の化け物が君に襲い掛かるからね。気を付けた方がいいよ。母上は女の子の味方だからなぁ。気に入った子限定だけど。』
青藍は楽しげに言う。


「あーあ。何か、僕、前途多難ですねぇ。兄様は何だか解決の方向に向かっているのに。」
『ふふ。そうかな。どう思う?雪乃。』
青藍はそう言って顔の赤い雪乃を見る。


「な、そこで私に振るの!?助けるなら最後まで助けなさいよ!」
『えー?だって、雪乃の顔、真っ赤じゃない。色々と自覚した?』
「顔が、赤いのは、お酒を、飲んだからよ・・・。」
青藍の言葉に雪乃は珍しく口籠る。


『僕が、君の酒癖を知らないとでも?侑李たちだって、知っているよ?』
楽しげに言う青藍に、雪乃は目を見開いた。
「な、何のことよ・・・。」
雪乃は言いながら酒を口に含む。
『あはは。今更隠したって無駄だけどね。』


「兄様?それはどういうことですか?」
『さぁね。気になるなら雪乃と呑みに行けばいいと思うよ。面白いから。』
そう言って青藍は悪戯っぽく笑う。
「へぇ?じゃあ、雪乃、今度僕と呑みに行こうね。」
それを見て橙晴は楽しげに言った。


「嫌よ。なんで下心がある人と呑まなきゃならないのよ。私、そこまで馬鹿じゃないわ。」
にっこりと微笑みながら言う橙晴に雪乃は言い切る。
「そんなぁ。僕の奢りでいくらでも呑ませてあげるのに。美味しい肴もつけてあげるよ?」


「それが怖いんじゃないの!!貴方、やっぱり青藍の弟ね。そうやって優しい振りして人を騙すところなんてそっくり!」
「実際兄様の弟だから仕方ないよね。でも、雪乃は兄様をよく知っているから、騙されてくれないんだよなぁ。兄様のせいで雪乃が手強い。」


『あはは。大変だねぇ。』
「笑い事じゃありません。どうしてくれるんですか・・・。」
笑う青藍に橙晴は拗ねたように言う。
『まぁ、僕は楽しく見ているよ。今のところ、我が家は橙晴の味方だからね。もしも雪乃が蜘蛛の巣から逃れるというのなら、協力はするけども。』
笑いながらいう青藍を雪乃は睨みつける。


「・・・ほんと、最低。嘘つき。鬼。悪魔。鬼畜。また騙されたわ。ていうか、そんなに前から自覚していたなんて、聞いてないわよ。もはや犯罪じゃない。」
『その辺の自覚があるから僕はこんなに苦労しているんじゃないか。』
言いながらも青藍は笑う。


「自業自得よ。・・・誰よ、こんなのに、当主になれって言ったのは。こんなのに権力握らせたらだめじゃない。ろくなことにならないわよ。」
『あはは。酷い言われ様だなぁ。僕は逃げるつもりだったのに、橙晴がなれっていうからさぁ。仕方なくだよ。』


「兄様一人だけ逃がすわけないじゃないですか。兄様に逃げられたら僕に回ってくるのですから。僕は面倒なことは嫌いなんです。」
『茶羅だって居るじゃない。』
「私は嫌ですわ。兄様ほど残酷にはなれませんもの。見えてらして?先ほどから、姫君たちが固まっていますわよ?」
茶羅は呆れたように言う。


『え、それは橙晴のせいじゃない?橙晴の本気に皆驚いたんでしょ。珍しいから。』
「まさか。その僕を簡単に止めた兄様があまりにも怖いからでしょう。」
「そうですわ。それに、この状況も計算のうちなのでしょう?これで余計な見合い話が来ないように牽制しているのだわ。公開で彼女らを振って置いて笑っているなんて、兄様は本当に悪魔ね。」


『振るも何も、僕には最初から深冬という婚約者がいるじゃないか。ねぇ、深冬?』
「そう、だな?」
問われて深冬は首を傾げながらも頷く。
『あはは。可愛いなぁ。』
そんな深冬を青藍は撫でる。

[ prev / next ]
top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -