色彩
■ 8.虎視眈々

「あの人、あんなだけど、隠し事ばかりなのよ。今さっきはへたれだったけど、普段は本音なんか見せないで笑って誤魔化してばかりなんだから。貴方だって、そういうタイプの人だわ。」
「否定はしないけどね。」


「なのに、何なのよ?貴方、真面目なの?不真面目なの?訳が分からないわ。今だって、そうやって飄々としているじゃない。」
「だって、雪乃は真面目にしたら逃げるでしょ?見合いも告白も全て蹴っているのは相手が真面目だからでしょう?」


「な、何を・・・。」
橙晴の言葉に、雪乃は気圧されたように言う。
「あのね、僕だって、別にただぼうっと君の隣に居るわけじゃないんだよ。色々と考えて今の状況なの。雪乃の言うとおり、僕は青藍兄様の弟で、同じようなタイプだからね。まぁ、兄様の方が色々な手回しをしているけどね。微笑んで優しい振りをしながら。」


「そんなこと、知っているわよ。」
「ついでに言うと、父上にも似ているかな。そういう手回しは、父上が一番得意だよ。ね、兄様?」
橙晴は楽しげに言う。


『あはは。そうだね。雪乃だって父上が母上をどうやって手に入れたか、知っているはずだよ。』
「知っているわよ。相手の家に勝手に話をつけて色々な手回しをして、外堀から埋めていって、捕まえたんでしょ・・・え?ちょっと待って?それって・・・。」


「あ、気が付いた?」
目を見開いた雪乃に、橙晴は楽しげにいう。
「まさか、お父様に話をつけているの!?」
「当たり前じゃないか。秋良様に話をつけないで、どうやって君の見合いを潰すのさ?」
「それは・・・確かにそうだわ。どうして気づかなかったのかしら。一番疑うべきはお父様じゃない・・・。」


「僕が急がないのは、秋良様を味方に付けているというのもあるけれど、雪乃が逃げなくなるのを待っているからだよ。友人のふりをして虎視眈々とね。」
「心の声が駄々漏れなのよ。それに、別に、逃げてなんか、居ないわよ・・・。」
雪乃は拗ねたように言う。


「ふぅん?じゃあ、どうして誰とも付き合わないの?」
「それは・・・。」
「君は、怖いんだ。一人で立てなくなることが。一度誰かに寄りかかってしまったら、一人で立てなくなってしまう。そんなことを考えているのでしょ?」
橙晴は冷たい視線を送りながら言う。


「・・・そんなこと、ないわ。」
「あるね。だから、さっきみたいに助けてと言いながら、差し伸べられた手を取ることはしない。」
「・・・。」
橙晴の冷たい目に、雪乃は怯えたように黙る。


「ふふ。僕が怖い?まぁ、当然だよね。化け物は、兄様だけじゃないのだから。」
橙晴は自嘲するように言う。
「全くさ、こんなに面倒なことをしなくても、手に入れることは簡単なのにね。」
橙晴は呟く。


「わざわざこんな遠回りしなくても、僕は手に入れることが出来るのに。それをしないのは君のためだよ。それに、兄様のように、罪悪感に潰されそうになるのは嫌だからね。知っているかい、雪乃?兄様、数年前には自覚しているんだよ?」


『橙晴、余計なことは言わないの。』
「僕は事実しか言っていません。」
言われて雪乃は目を丸くする。
色々と気が付いたらしい。


「気が付いたようだね。」
橙晴は楽しそうに言う。
「兄様は狡い手だと解っていながらも、そういう手段を取った。雪乃たちにはそれを誤魔化しながら。」


『橙晴、それ以上僕のことを言うのは本当にやめて・・・。雪乃に怒られるじゃないか。蓮にだって怒られてしまうよ・・・。皆、怒らせると怖いんだよ。僕のこと袋叩きにするんだから。』
楽しげな橙晴に青藍は遠い目をする。


「はいはい。後で皆さんに存分に怒られてくださいね。・・・というわけで、雪乃、君が気付いたところで、選択肢はないのだけれど。あぁ、だからと言って別に君が誰かと付き合うことを止めはしないよ。」
橙晴はそう言って微笑む。
その瞳は冷たいのだが。


「君が誰かを好きになったのなら、それはそれでいいよ。邪魔はしない。長期戦は覚悟の上だ。と、いうより、すでに長期戦に突入しているのだけれど。雪乃ったら全然気が付かないんだもの。」
そういいながら橙晴は肩を竦める。


「それとも、意識的に僕を外しているのかな。どうやら君は、僕が怖いらしいから。」
「そん、な、こと、は・・・ないわよ。」
微笑む橙晴に雪乃はやっとのことで声を出す。
「ふぅん?まぁ、でも、あまり僕を待たせないでほしいかな。本来ならば僕は、兄様と違って待つ必要はないからね。」


「!!!!」
「僕だっていつまでも友人の弟っていう立場で居るのは辛い。あんまり待たせると、攫ってどこかに閉じ込めちゃうかも。君は既に捕えられているから、そのくらい訳ないんだよね。」
笑顔でそんな恐ろしいことを言う橙晴に、雪乃は震えたようだった。

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