色彩
■ 7.酔っ払いたち

「何をぶつぶつ言っているのだ・・・?」
『・・・何でもないよ、この酔っ払い。僕は、酔っ払いは真面目に相手しないって決めているんだよ。』
「私は酔ってなどいない。」
『嘘。顔が真っ赤。』


「酔っていない!」
『それは酔っ払いの科白です。それに、酔っていないならそれはそれで色々と問題なんだってば・・・。』
「何だそれは?」
深冬はじとりとした目で青藍を見る。


『・・・いいから、とりあえず、君は酔っているということにしておいてくれ。自覚がないから困る。』
「嫌だ。」
『お願い。・・・だめ?』
青藍はそう言って小首をかしげる。
そんな青藍を深冬は不審そうにじいっと見つめた。


『深冬にはこれが効かないよね。大抵の人はこれで僕のお願い聞いてくれるのになぁ。』
青藍はそんなことを呟く。
『・・・解ったよ。降参。話す。ちゃんと話すけど、それは後でね。』
「本当に?」
『うん。本当に。』
「絶対だな?」
疑うように深冬は問う。


『もちろん。』
そんな深冬に苦笑しつつ、青藍は頷いた。
「約束する?」
『うん。約束するよ。』
「じゃあ、いい。」
『あはは。ありがと。』


「・・・何なのよ、あれ。」
一方、橙晴はそんなことを呟く雪乃に、戦々恐々としていた。
酔っているせいか、目が据わっているのだ。
「あの、雪乃?どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、何で、あの人たちは何となく問題解決の方向に向かっているのよ。私はこんなに悩んでいるのに。腹立たしいったらないわ。」
二人を睨みながら言う雪乃に、橙晴は首を傾げる。


「雪乃、何か悩んでいるの?」
「悩んでいるの、ですって?その張本人が何を言ってくれているのよ。あなた、私の見合い話を勝手に断っているそうじゃない。」


・・・ん?
今何か、信じられないことを聞いたような・・・。
橙晴は睨みつけてくる雪乃を恐る恐る見返す。
「それは・・・。」


「一体何なのよ!?私は貴方たち兄弟の見合い避けじゃないのよ!いや、そうじゃないわ。青藍はそんなことしなかったもの。お互い様でもあったし。でも、貴方は何なの。何故私の見合いを潰す必要があるのよ。もう、訳が分からないわ・・・。」
雪乃はそう言ってさらに葡萄酒を口に含む。


「あの、それは、一体、誰から・・・?」
恐ろしいことを言っている雪乃に、橙晴は困惑する。
流石に、秋良様ではないよね・・・?


「・・・朽木隊長よ!」
グラスを叩くようにテーブルに置きながら、雪乃は言う。
「・・・え?父上!?」
その言葉を理解して、橙晴は叫んだ。
その叫び声に、次は何だと、今度はこちらに注目が集まる。
「そうよ!周防の当主様とそんな話をしていらしたの。それで、どういうことかと問い詰めたわ。そうしたら、橙晴が、私の見合いを潰しているって!」


雪乃のそんな叫びに、橙晴は頭を抱える。
父上、後でちょっと、詳しく問い詰めますからね・・・。
一体どこまで話したんだ・・・。
というより、何故慶一殿にそんな話をしているのか・・・。
「何頭を抱えているのよ!頭を抱えたいのは私の方でしょ!?」
「あはは・・・。」


「笑い事じゃないわよ!青藍が婚約して、貴方への見合い話がどれだけあると思うのよ!私にすべての姫を敵にしろというのかしら?青藍との噂があったのに次は貴方が噂の相手になったりしたら、私、どれだけ恨まれるか・・・。」


「あは。茶羅と深冬は敵にはならないよ。あの二人が味方なら大概のことは大丈夫だ。僕らが味方に付くのだから。」
「そういうことじゃあないでしょ!それでなくても、私がどれだけ絡まれているか、貴方知らないでしょ?」
そう言ってぎろりと橙晴を睨みつける。


「週に三日くらいのペースで絡まれているよね。」
「知っているならどうにかしなさいよ!というか、何故知っているのよ、怖いわね!」
「あはは。まぁそれは色々と。それに、僕が手を出すと余計に拗れるというか、手を出す前に雪乃が自分で解決しちゃうというか・・・。」


「何よ、皆して・・・。知っているなら助けなさいよ。私だって、たまには誰かに助けて欲しいわよ・・・。」
雪乃はそう言って顔を覆う。
その横顔が泣きそうで、橙晴は内心焦る。
「じゃあ、僕が助ける。それならいい?」
「同情なんていらないわよ・・・。」
雪乃は不満げに再び酒を口に含む。


「・・・あのねぇ、僕が雪乃の見合いを潰している理由くらい、雪乃は気付いているんでしょ?雪乃はそれほど無自覚じゃないんだから。」
「それが分からないからこんなに悩んでいるのよ。馬鹿じゃないの?」
「ば・・・馬鹿は雪乃だよ・・・。人のことは鋭いくせに、何で自分のことには鈍いかなぁ。それとも酔っぱらっているせい?」
橙晴はため息を吐く。


「酔って何かいないわよ!だって、貴方普通なんだもの。いつも隣にいるだけで何もしようとしないじゃない。そんなの、信じるわけないわ。大体、あの胡散臭い青藍の弟なのよ!?信じろっていう方が難しいじゃない!私はいつも知らないうちにあの人に巻き込まれているんだから!!!」
青藍を指さしながら、雪乃は叫ぶ。


『あはは・・・。雪乃、僕のことそう思っているのね・・・。』
指さされた青藍は苦笑するしかない。

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