色彩
■ 6.奪われる

「・・・青藍は、溜め息ばかりだ。」
深冬は不満げに言う。
青藍はそれに目を丸くした。


『え?そんなことないよ?』
「嘘だ。青藍は最近、私の前でだけ、溜め息を吐く。それに、前は青藍から抱き着いてきたくせに、今は私が近づくと困った顔をする。どうしてだ?」
言われて青藍は深冬から目を逸らした。


「そうやってすぐに私から目を逸らす。他の人にはそうしないのに。」
『それは・・・。』
言われて青藍は口籠る。


僕、そんなに態度に出ていただろうか。
気を付けていたのに。
真っ直ぐに見つめてくる深冬の視線を感じながら、青藍は内心で呟く。
確かに、彼女に触れることはなるべく避けていた。
頭を撫でるぐらいに抑えていた。


目をそらすのは、君が僕を真っ直ぐに見つめるからで、僕の心を見透かされそうで、それが、怖いからだ。
でも、それは深冬にだけじゃなく、皆にそうしているつもりだった。
皆に対してそうしていると見せるために。
それでも見抜かれてしまうほど、僕は自制が利かなくなっているのか・・・。
また溜め息を吐きそうになって青藍は慌ててそれを引っ込める。


「・・・私が、何かしたのか?」
泣きそうな声で言われて、青藍は思わず深冬を見る。
今にも泣きそうな顔がそこにあった。
『違う。』


「じゃあ、私のことが嫌いになったのか?」
『それも違う。』
「それじゃあ、どうしてそんなに苦しそうな顔をするのだ。私には話せないのか?」
『それは・・・僕にも色々とあるのさ。』


「・・・またそうやって隠し事だ。雪乃様には・・・話すくせに・・・。」
深冬は俯きながら呟くように言う。
その言葉の意味を理解して、青藍は顔を手で覆った。


・・・そんなことを言うのは、狡いじゃないか。
だって、それは、嫉妬というのではないの・・・。
僕は君に期待してもいいの?
そういう意味で君は僕を好いていると思っていいの?
それとも無自覚?
いや、それはそれで嬉しいけど。


そんなことを考えていると、顔を覆う青藍の手を深冬が掴んだ。
そして、その手を青藍の顔が見えるように退けると、深冬は青藍の両頬を手で挟んだ。
『深冬?』
それに驚いてポカンとしていると、徐々に深冬の顔が近づいてくる。


ちゅ。
近付く深冬に呆けているとそんな音がして、青藍は我に返る。
それを見ていた周りからざわめきが起こるが青藍はそれに気付けない。


・・・え?
今、僕・・・。
深冬に、唇を、奪われた・・・?
それを理解して、青藍は口元を掌で隠す。
・・・大丈夫。
相手は酔っ払い。
心臓が早鐘を打っているなんて、気のせいだ。
気にするな、僕。
だから顔が赤くなんかならない。


・・・でも柔らかかった。
ていうか、キスなんて、初めてなんですけど。
しかも相手が深冬とか、嬉しすぎて泣きそう。
どうしよう。
全然嫌じゃなかった。
もう一回したら、深冬に怒られるかな・・・。


・・・いやいやいや、冷静になれ、僕。
色々と駄目だ。
抑えろ、僕。
僕は朽木青藍で、六番隊第三席で、朽木家次期当主だ。
この状況で、取り乱してはいけない。
・・・よし。
とりあえず、一つだけ確認したいことがある。


『君・・・そういうの・・・・どこで覚えて来るの・・・?』
「咲夜様が、青藍はこうすると喜ぶと言っていた。」
青藍が呟くように言うと、深冬は当然の様に言い放った。
その言葉に、青藍は唖然とする。


・・・やられた。
これは母上の策略だ。
あれだ。
多分、深冬から抱き着いてくるようになったのも、母上だ。
全くあの人は・・・。
青藍は内心でため息を吐く。


「青藍?」
口元を押さえたままの青藍に、深冬は首を傾げる。
『・・・うん。解った。でも、母上の言葉は、あまり真に受けないでくれると、助かる。君も、意味が分からずに、そういうことをするのは、やめてね。』
母上には後で父上にお仕置きしてもらおう。
「嬉しくないのか?」
青藍の言葉に深冬はなおも首を傾げる。


『・・・はぁ。』
「また溜め息だ!青藍はそれをやめろ。」
青藍の溜め息に深冬は頬を膨らませる。
『あぁ、うん・・・。そうだね・・・。』
「それから目をそらすな。」
『うん。』
「隠し事もやめろ。」
『うん。』


「だから、青藍の様子が変な理由を話せ。」
『うん・・・ん?』
頷いて、青藍は首を傾げる。
「頷いたな?」
それを見て、深冬は勝ち誇ったように言った。


『だ、それは、ちょっと、待った。』
「何故だ?青藍は今頷いた。」
『いや、そうだけど。』
「じゃあ話せ。」
深冬はそう言って青藍を見つめる。


『・・・後でね。』
「何故だ?」
『それは・・・君が今、無自覚に僕を煽ってくるから。』
「煽る?」
『いや、それはいい。いや、良くないけど。でも、君は今、自分が何をしたのか理解しているのかな?』


「?」
『・・・・・・だよね。うん。知っているけどさ。知っていて、そんなことを教える母上もどうかと思うけどさ。完全に僕で遊んでくれているよね・・・。』
青藍は小さく呟く。

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