色彩
■ 5.溜め息

そんなこんなで昼食の時間である。
一度集合して皆が揃っていることを確認すると、一行はビュッフェへと向かった。
これは姫たちの希望である。
いつもは何もせずとも料理が運ばれてくるので彼女らには物珍しいのだろう。


だが、問題は席順だった。
彼女らに抗う術などなく、青藍と橙晴はそれぞれ深冬と雪乃から離されてしまったのである。
自由時間にいくら探しても彼らの姿が見えなかったことが不満らしかった。
内心でため息を吐きながら、二人は適当に相手をする。
その間、これ幸いと睦月と師走は雪乃たちの方へ逃げていったのだが。


ガチャン。
暫く青藍たちが質問攻めにされていると、睦月たちの方からそんな音が聞こえてきた。
見ると、深冬と雪乃が突っ伏している。
何事かと、青藍と橙晴は二人に駆け寄った。
それを見て睦月と師走はまずい、という顔をしているのだが、とりあえずまだ青藍たちはそれに気が付いていない。


「貴方たち、本当に馬鹿ね。」
茶羅がしれっとそんなことを呟くと、二人は顔を青くさせた。
「いや、だって、なぁ?」
「彼奴らそんなに酒に弱くないだろう・・・。」
「馬鹿ね。日本酒と葡萄酒では酔う酔わないがある人もいるの。貴方たちみたいになんでも馬鹿みたいに飲める方が少ないのよ。」


そんな会話をしているとは露知らず、青藍は深冬に声を掛ける。
『深冬?どうしたの?気分でも悪い?』
青藍の声に反応するように、深冬は顔を上げる。
その顔は真っ赤になっていた。
瞳がうるんで、少しぼうっとしているようだった。


・・・酔っている?
そんな深冬にどきりとしつつも、青藍はテーブルの上のグラスを手に取って、口に含んだ。
葡萄酒、ということは・・・。
橙晴も同じ結論に辿り着いたらしい。
そして主犯と思われる二人に冷たい視線を向けた。


『・・・君たち、何を呑ませているのかな?』
「二人が飲む分には別にいいと、見逃していたけれど。」
ひやり、とした二人の雰囲気に睦月と師走は凍りつく。
『護衛が呑んでいるのもそれはそれで問題だけれど、護衛が姫を酔わせては駄目だよね、睦月?』
「それは・・・。」


「ねぇ、師走?」
「な、なんでしょうか・・・?」
「君の雇い主は一体誰だったかな?」
「貴方方のお父上です。」
『そうだね。僕らの父上が、それを許すとでも?』
青藍はにっこりと微笑む。


「「・・・。」」
その微笑に二人は息を呑んだ。
「父上にボロボロにされるでしょうね、お二人とも。」
『だろうね。それから死ぬほど働かされるんだろうなぁ。』
『「まぁ、僕もこき使ってやるけど。」』
言い切った二人に、睦月と師走は軽く悲鳴を上げる。


『・・・はぁ。ま、いいや。父上には黙っておいてあげよう。でも、とりあえず君たち二人には、一か月間の禁酒を申し付ける。これは次期当主からの命令。』
「「そんな・・・。」」
「ん?何?一年間が良い?」


「「いえ!」」
微笑みながら言う橙晴に二人は勢いよく首を横に振る。
『それから、君たちは姫の相手をしなさい。さっさと向こうへ行く。もちろん、僕らの分まで存分に彼女たちの相手をしてあげてね。』
言われて二人は顔を青くしながらすぐに姫たちの元へ向かったのだった。


『・・・はぁ。』
青藍はそんな盛大なため息を吐いてとりあえず深冬の隣に座る。
そして先ほどからぼうっとしている深冬を見た。
それに気が付いたのか、深冬もまた青藍の方を向く。


「・・・青藍だ。」
深冬はそう言うと、青藍の膝によじ登ってくる。
『ちょっと!?深冬!?危ないよ!?』
そんな深冬に焦りつつも青藍は彼女が落ちないように支える。
その手に満足したのか、深冬は青藍の胸に凭れ掛かった。


・・・あぁ、もう何なの?
可愛すぎるでしょう。
こんなことされたら、僕、どうしたらいいのか・・・。
いや、色々と駄目なんだって。
最近は流石に膝の上にのせることも遠慮していたのだから。


それなのに、真っ赤な顔して目を潤ませて、そんな嬉しそうにすり寄られたら、離すことも出来ないじゃないの。
青藍は内心でそんなことを思いながら、諦めて深冬を隠すように抱きしめる。
注目もされているし、どうしようかな、この子・・・。
その間、溜め息が三つ四つ。
それに深冬は不満げに顔を上げたのだった。

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