色彩
■ 2.呼び出し

「・・・青藍?」
呼ばれて、青藍は自分が考え込んでいたことに気が付く。
目の前には深冬が首を傾げて立っていた。
「どうかしたのか?」
そう言ってくる深冬を青藍は頬杖をついて見上げる。


『いや、ぼうっとしていただけだよ。』
言いながら青藍は微笑む。
「そうか。それならいい。・・・十三番隊からの書類だ。」
深冬はそう言って書類を差し出す。
青藍はそれを受け取った。


・・・やっぱり、可愛いよねぇ。
青藍は書類に目を通しながら、無意識に溜め息を吐く。
それを見て、深冬は何とも言えない顔をする。
しかし、青藍はそれに気付いていないのだった。
内心で色々と考えているのである。


僕の我が儘で、深冬は平の隊士のままだ。
実力は席官程度なのだが、任務の危険度が上がるため、青藍は浮竹に頼んで席官への昇進の話を握りつぶしているのである。
深冬はそれを自分の体が太陽の光に弱いせいだと思っているらしく、もっと強くならなければ、と、修練を怠ることはしない。


何せ、十三番隊の隊長は病弱なのだ。
彼が隊長になれるのならば、自分も昇進することが出来るのではないかと考えているのである。
その努力を知っているからこそ、青藍は心が痛かった。
さらにその理由が、青藍の力になりたい、というものだから居たたまれないのだ。


『・・・うん。問題はないようだね。確かに預かりました。ご苦労様。』
書類に目を通して、青藍は微笑む。
「そうか。それで、だな・・・。今日も、その・・・昼休みに・・・。」
深冬は言い難そうに目を伏せる。


また呼び出されているのだ。
昼休みに深冬が呼び出されると、時間的に青藍と共に昼食を摂ることは出来なくなる。
青藍は内心でため息を吐く。
『そっか。解ったよ。気を付けてね。ちゃんと白刃を連れて行くんだよ?』
青藍は苦笑しながらいう。


「あぁ。解っている。いつも悪い。」
『構わないさ。今日は邸に帰るでしょ?仕事が終わったら迎えに行くから、待っていてね。』
青藍はそう言って微笑みながら深冬の頭を撫でる。
「うん。解った。」
深冬はそれに安心したように、軽く微笑んで頷いた。
それを六番隊の隊士たちは今日も仲が良いなぁ、などと微笑ましく見つめる。


ただ一人、橙晴だけが、やきもきとしているのだった。
何故兄様は未だに思いを告げないのか、と。
誰が見ても互いに思い合っていることは明白なのに、どうもその辺は自覚しないらしい。
いい加減、兄様も色々と大変だろうに。
橙晴はそんなことを考えながら、青藍を横目でチラリと見つめる。
いや、まぁ、それは、僕自身、そうなのだけれども。


橙晴もまた、雪乃との距離感をどうするか考えているのである。
既に秋良には話をつけているのだが。
そのお蔭で雪乃が見合いをするという話は上がってこない。
雪乃への見合い話を橙晴が握りつぶしているのだ。
秋良と共謀して。


しかし、美人ではっきりとした性格の雪乃は、護廷隊の中でも人気が高い。
雪乃に思いを告げるものも後を絶たない。
よって、橙晴は青藍の恋路を憂いている場合ではないのである。
朽木家の力で手に入れることは簡単だが、出来ることなら彼女の心が欲しかった。


・・・はぁ。
僕もいい加減、片思いが長いなぁ。
橙晴は内心で呟く。
実際、雪乃が院生の頃からの片思いなので、すでに片思い歴十数年。
いい加減、僕を男と認識してほしいものだ・・・。


『「・・・はぁ。」』
深冬が出ていくと、二人は同時にため息を吐いた。
互いにそれに気がついて、苦笑する。
どちらも四苦八苦していることを知っているからだ。


『橙晴・・・。』
「何ですか?」
『君も僕も、難儀だねぇ。』
「そうですねぇ。やる気を出せばどうにでも出来てしまうというのが、辛いところです。」
『うん。本当にそうだよね・・・。』
そんな会話をしながらため息を吐く二人に、隊士たちは首を傾げる。
そんな折、悩める二人に災難が降りかかってきたのである。


『護衛、ですか?』
橙晴と共に隊主室に呼ばれた青藍は、白哉の言葉に首を傾げる。
「・・・あぁ。貴族の姫たちが現世に行くと言い出したらしくてな。茶羅と深冬、雪乃も呼ばれている。」


「そう言えば、茶羅がそんなことを言っていましたが・・・。」
『護衛など、わざわざ僕らが行くほどのことなのですか?』
「そうではないのだが、相手は上流貴族の姫たちだ。他の隊が、それを嫌がったのだ・・・。」
面倒そうに白哉は言う。


「なるほど。それで僕らという訳ですか。」
「頼めるか?」
『僕ら以外に行くという人が居ないのでしょう?まぁ、護衛対象が女性なので、僕は基本的に役立たずですが。深冬と茶羅しか助けられませんよ、僕は。』


「それでいい。その二人以外は橙晴の担当だ。」
『では、断れませんね。』
「・・・はぁ。そうですね。」
二人は諦めたように言う。
そんな二人に白哉は苦笑を漏らした。


「睦月と師走も連れて行くといい。・・・深冬と雪乃、茶羅が居るのだ。気楽に現世に遊びに行く気分でいいだろう。」
「そうですね。何か余計な人たちが居るだけだと思えば・・・。」
『あはは・・・。僕は深冬という婚約者がいるけれど、橙晴は大変だろうね・・・。』


「何かあっても大抵のことはそなたら二人で何とかできるだろう。頼んだぞ。」
『「はい。」』
苦笑する白哉に、気乗りはしないが、二人とも頷いたのだった。

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