色彩
■ 31.大きな課題

『・・・失礼。少々、豪紀殿をお借りしてもよろしいだろうか。』
八重を説得した青藍は、そう言って豪紀の腕をつかむ。
彼と話していた相手は青藍を見て、一も二もなく頷く。
『では、お借りしますね。』
青藍はニコリと微笑んで、豪紀の腕を引っ張って浮竹たちの元へ行く。


「おい。何をする気だ?」
そんな青藍に豪紀は小さく尋ねる。
『何って・・・八重殿はもう大丈夫だ。僕が口説き落とした。と、言う報告。』
「口説き落とした・・・?」
青藍の言葉に、豪紀は怪訝な表情をする。


『あ、違う。説得した。』
それを見て、青藍は言いなおす。
「お前、それ、本当だろうな・・・?」
『あはは。もちろん。深冬をどう思っているのか、伝えただけさ。女性にはこういうことをちゃんと伝えると効果的なのだよ。恋を知っている方なら尚更ね。』
青藍は楽しげに言う。


「・・・まぁ、いい。それで?」
『うん。僕と深冬の婚約を認めてもらった。だから、これ以上八重殿が僕らに手を出してくることはない。・・・と、思う。』
「何故言い切らないんだ・・・。」


『まぁ、それは加賀美のご当主と君の努力次第ってところだからね。君たちも八重殿ときちんと話をした方がいい。』
「それは・・・解っている。」
『うん。頼むよ。何か色々と君が八重殿のために頑張った的なこと勝手に言ったから、適当に話を合わせておいてね。』
青藍は悪戯っぽく言う。


「何だよそれは・・・。」
『まぁまぁ。それで八重殿は、心を鎮めてくれたんだ。君が八重殿を守るために僕に八重殿の話をしたことになっている。まぁ、半分本当で半分嘘って所でしょ?』
「・・・俺、やっぱりお前のことすごく嫌いだ。」
『あはは!うん。知ってる。』
「何で嬉しそうなんだよ。変な奴だな、お前。」


『ふふふ。・・・あ、春水殿、十四郎殿。深冬の護衛お疲れ様でした。睦月も。』
「はは。俺たちは茶を飲んでいただけだ。」
「そうそう。僕はお酒の方がいいけどね。」
二人はそう言って笑う。
「俺もそっちの方がいい。」


『あはは。それはもちろん後でご用意いたしますよ。さぁ、加賀美君。君もここに座りたまえよ。』
青藍は楽しげに席を叩く。
「・・・はぁ。失礼します。」
そんな青藍を一瞥して浮竹たちに一礼すると豪紀は座る。


『さて加賀美君。君には八重殿以外にも大きな課題があるのだよ。』
青藍は楽しげに話しだす。
「は?」
『君だって解っているはずだ。・・・と、いう訳で、深冬、ちょっとこちらへおいでなさいな。』


「何だ?・・・うわ!?」
青藍はよって来た深冬を膝の上にのせて後ろから抱え込むようにした。
「な、何をする!」
『まぁ、ちょっと大人しくしていてよ、深冬。』
それを見て浮竹と京楽は楽しげにする。
睦月はやっぱりか、というような顔をした。


『さぁ、加賀美君。こちらを向いて瞳を見給えよ。』
青藍に言われて豪紀は青藍の方を向いた。
『・・・僕の瞳を見てどうする。深冬の瞳に決まっているだろう。』
困惑したように青藍を見つめる豪紀に、青藍は呆れたように言う。


『ほらほら、深冬はちゃんと君を見ているよ。三秒でいいから、目を合わせてあげて。』
言われて豪紀は恐る恐る深冬の瞳を見る。
『いーち、にーい、さーん。』
青藍が三つ数えると、豪紀は気まずげに深冬から目を逸らした。


『はい、よくできましたー。』
そう言った青藍に豪紀は拗ねたような視線を向ける。
『あはは。そう拗ねないの。それで、今の深冬の瞳を見た感想は?』
「・・・はぁ。俺、やっぱりお前、大嫌いだ。」
楽しげな青藍に豪紀はそう呟く。


『そんなこと、知っているさ。顔を合わせる度に君に嫌いだと言われているのだから。今僕が聞いているのは、深冬の瞳についてだよ。その反応からすると、前とは違う感想があるのだと思うけど。』


「・・・柘榴石の、ようだ。」
『うーん、まだ言葉が足りないようだけれど、まぁ、いいか。でも、君はもう、深冬の瞳を見ることが出来るだろう?』
青藍はそう言って微笑む。


「五月蝿い。黙れ。こっちを見るな。」
何故こうも見透かされるのか。
豪紀は内心でため息を吐く。


『えぇ。酷いなぁ。じゃあ、深冬に聞くからいいもん。・・・深冬、初めて加賀美君と目があった感想は?』
青藍は楽しげに問う。
「・・・驚いた。でも、嬉しい・・・?」
首を傾げながら深冬はそんなことを言う。


『あはは!深冬は素直だよねぇ。加賀美君と違って。加賀美君、なんだかんだ言いながら、深冬のために色々と協力してくれたのに。それに、深冬を酒宴に連れ出していたのだって、深冬をなるべく邸に居させないためだ。邸には八重殿が居るから。そうでしょう?』


「もう、本当に、お前、黙れ・・・。」
楽しげな青藍に豪紀は片手で顔を隠す。

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