色彩
■ 29.瞳の色

青藍が咲夜たちの元へ向かうと、八重は咲夜に向かって震えながら何かを言っているようだった。
咲夜はそれをただ静かに聞いている。
白哉はそれを冷たい視線で見つめていた。


『あらら。何やら取り乱しておりますね。如何なさいましたか、八重殿?』
青藍は事情を知らないふりをして微笑みながら八重に問う。
「せい、らん、さま?」
『えぇ。どうかなさいましたか?』


「瞳が、咲夜様の瞳が・・・!!!」
八重は青藍にしがみつくように言った。
『瞳?』
「赤く、赤くなって・・・。」
言われて青藍は一応咲夜の瞳を見る。


『赤くは・・・ないようですが。いつもと同じ空色ですよ?』
「いえ、だって、急に、赤く・・・。」
『しかし、赤い瞳なら、八重殿は見慣れているのでは?深冬のお母様なのですから。』
にっこりと青藍は言う。
「そんなもの!あんな、気味の悪いもの、見られるわけがありません!」


『・・・それは、私の母への侮辱とも取れますが。貴方は母の瞳が赤いと言ったのだから。赤い瞳を気味が悪いというのならば、私の母は気味が悪いということになります。』
微笑みながらいう青藍に八重は小さく悲鳴を上げる。
「それ、は・・・。」


『それに、瞳の色なら、私も変わりますよ?』
そういうと同時に青藍の瞳は金色に輝いた。
勿論、鳴神の瞳である。
それを見て八重は青藍から離れようと後ずさった。
『ふふ。この瞳が怖いですか?恐ろしいですか?』


「ば、化け物・・・。」
八重は震えながら小さく呟く。
『そうですよ。我が朽木家は化け物ばかりです。そんな化け物に、加賀美家の次期当主を渡したいのですか?貴方は豪紀殿と茶羅を結婚させたいようですが、茶羅とて朽木家の一員です。貴方が化け物といった私の妹です。化け物でないとは言い切れません。』
青藍は悪魔のように美しく微笑む。


『先ほどから、貴方がこの邸にいれた者たちが次々と捕えられております。』
青藍の言葉に八重は目を見開く。
『さて、一体どういうことでしょうね?まさか、貴方が西園寺をこの邸に入れているとは思いませんでしたよ。貴方はどうしても深冬をあの男に渡したいらしい。』
青藍はやれやれと首を振る。
そして八重を真っ直ぐに見た。


『それは、何故です?何故、貴方はそれほど深冬を恨むのですか?深冬が、貴方に何をしたというのです?』
「・・・あの子供が、私から、夫を、豪紀を奪って行った。あの子供さえ、来なければ、私は・・・私が、一番だったのに・・・。」
八重はそう言って顔を覆う。


「あんな、拾ってきた子供に、人形のような子供に、この私が負けるなど・・・。親が誰かもわからないような、そんな、どこの誰とも知れない子供など・・・。」
『そうでもありませんよ。私は、深冬の生まれを知っています。知った上で、深冬との婚約を決めました。もちろん、その方の了承は得ています。』
瞳の色を戻した青藍は言い聞かせるように言う。


「な、にを・・・?」
瞳が元に戻ったことに、少し力を抜いたのか、八重は青藍の瞳を見る。
『その方がどんな方であるかは、その方のために申しませんが、深冬の血筋は確かなものです。貴方が思う以上に。』
「え・・・?」


『その上、上流貴族加賀美家で育っている。ですから、朽木家の者の中に深冬を受け入れることに反対するものなど、おりません。』
「ですが、あの赤い瞳なのですよ?青藍様には、似合わない・・・。青藍様は立派な方なのに。」
呟くように八重は言う。


『瞳の色などで反対するものもおりません。瞳の色など、突然変異でいくらでも変わるのです。私の瞳も、左右で色が違う。この瞳を見て気味が悪いという方ももちろんおりますが、瞳の色などで、その人の価値が計れるなどと、考えないで頂きたい。こんな瞳の私を立派だと言ってくださるのならば、貴方にはそれが理解できるはずです。』
言われて八重は、何かに気が付いたように、力を抜いた。

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