色彩
■ 28.希望を宿す

「そうだとしても・・・どうして、青藍様は、深冬を・・・。」
「それは私にも解りかねます。あの子はあまり本心を見せない子ですから。ですが、どのような意図があろうと、青藍が納得し、深冬も納得したうえで、この度の婚約となったのです。白哉様を始め、朽木家の者はこの婚約をすでに受け入れております。」


「では、深冬があのような気味の悪い紅色の瞳をしていることも・・・?」
「えぇ。あの瞳を気味悪がる方や恐れる方もいらっしゃるようですが、我が朽木家にはそのようなものは一人もおりません。容姿がどうであろうと、重要なのは中身なのではありませんか?どれほど美しい容姿をしていても、醜い方など幾らでもおりますでしょう?」


例えば、貴方とか。
咲夜は心の中でそう付け加える。
相手はそれを読み取ったようだった。
顔が赤くなり、口元が震えている。
なるほど。
確かに聡いらしい。


「幸い、私を含め、朽木家の者はそう言う者を見抜くのが得意でして。」
咲夜はそういって口角を上げる。
「そう、ですの・・・。」
「そして、ここからは、少々秘密の話なのですが。」
咲夜は言いながら黒刃に呼び掛ける。


黒刃、君の瞳を貸しておくれ。
黒刃はそれに頷き、咲夜に自らの紅色の瞳を貸す。
そのため、咲夜の瞳は徐々に赤くなっていく。
「貴方が先ほど、気味が悪いと言った瞳を、私も持っておりますの。」
そう言って微笑んだ咲夜の瞳を見て、八重は悲鳴を上げて後ずさったのだった。


「化け物!!!」
浮竹たちと談笑していた青藍の耳にそんな声が聞こえてきた。
どうやら、咲夜の方から聞こえてきたらしく、その声のした方に広間に居た者たちの注目が集まる。
しかし、茶羅と橙晴が楽しげに舞を始めたので、彼らの注目はそちらに移っていく。


「あらら。そんなこと言って、朽木隊長が許すと思うのかな。」
「はは。まぁ、ある意味で正解だけどな。」
『ふふふ。母上もその自覚がありますからね。母上が化け物ならば、僕も化け物ということになりますねぇ。まぁ、僕もその自覚はありますけど。』


「咲夜さん、一体何をしたんだ?」
睦月は首を傾げる。
『ふふ。今日のあの母上で、瞳が急に紅色になったりしたら、怖いですよねぇ。』
「「「・・・なるほど。」」」
青藍の言葉に、三人は気の毒そうに頷く。


『まぁ、僕もそれは見たくはありませんが。本当に夢に出てきそうですから。』
「ははは。そうだな。」
『まぁ、瞳の色が赤だろうと青だろうと黒だろうと、そんなものは関係ありません。深冬の瞳は綺麗な瞳だからね。君は、気味悪くなんかないんだ。だから、そんな顔をしないで、深冬。』


化け物という声が聞こえてから、深冬は凍ったように固まっていた。
青藍はそれを溶かすように、深冬の背中を撫でる。
「そうそう。僕もその瞳、綺麗だと思うよ。あったかい綺麗な瞳だ。」
「そうだぞ。深冬の瞳は、暁の色だ。夜明けの空の色だぞ。」
「確かにそうですね。夕焼けというよりは朝焼けの色だ。」
三人はそう言って微笑む。


「・・・ありがとう、ございます。」
その微笑を見て、深冬は泣きそうになる。
『ふふ。良かったね。夜明けというのは、希望なんだよ。だから、君は希望をその瞳に宿しているということだ。』


「青藍・・・。」
深冬は青藍の瞳を真っ直ぐに見つめる。
『うん。もう大丈夫だよ。君の瞳をちゃんと見返してくれる人がちゃんと居るから。ね?』
青藍はその瞳を見返して微笑む。
「うん。そうだな。」
そんな青藍に、深冬は微笑みを見せたのだった。


「・・・ねぇ、浮竹。僕、ちょっと今感動しているのだけど。」
「あぁ。俺もだ。やっと笑ったな。初めて漣の笑顔を見たときと同じ気分だ。」
笑いあう二人を見て、京楽と浮竹の二人はそれを泣きそうに見つめる。
「知らないんですか?青藍の前では結構笑うんですよ。」
それを呆れたように見ながら、睦月はいう。


「えぇ!?何それ。青藍、やっぱり狡くない!?」
「そうですか?青藍はそういう奴でしょう。」
「はは。それもそうだな。」
「それにしたって、あの笑顔独り占めは狡いよ・・・。」
京楽は納得がいかない様子だ。
「まぁ、婚約者だし、いいじゃないか。」


『どうしました?』
こそこそと話す三人に青藍は首を傾げる。
「いや、なんでもないさ。」
「そうそう。そんな可愛い子が婚約者で羨ましいなぁっていう話だからね。」


「それなら京楽さんたちも婚約者作ればいいんじゃないですか?貴方方、それなりにもてるんですから。」
睦月がどうでも良さそうに言う。
「ははは。それが出来たら男鰥夫じゃないだろう。」
「そうだよ。簡単に言わないでほしいよねぇ。」


『その気もないくせによく言いますよねぇ。・・・とりあえず、僕はあちらに行きますか。父上が飛んでいきましたけど、先ほどから何やら取り乱した様子なので。』
「あはは。行ってらっしゃい。深冬ちゃんは僕らが預かっておくよ。」

[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -