色彩
■ 26.怖いものなし

「それで、ご相談というのは?」
咲夜は内容を知りながら、何も知らないというように首を傾げる。
「それは・・・。」
聞かれて八重は気まずそうに、周りに目をやった。
もちろん、彼らに席を外してほしいという演技だろう。


・・・面倒な人だ。
邪魔なら邪魔と自分で言えばいいものを。
「どうやら、他に人が居ると話しづらいようでございますね。」
そんなことを思いながらも咲夜は心得たというように言う。
「えぇ・・・。」


「・・・青藍、睦月、下がりなさい。」
咲夜は命令するように言う。
『「はい。」』
二人はそれに大人しく頷いた。


「深冬も他の方々にご挨拶をしてくるといいでしょう。加賀美様方も席をお外し願えますか?」
「えぇ。では、私たちも皆様方にご挨拶を。」
咲夜に言われて、男性陣と深冬は立ち上がる。


『では、何かあれば、お呼びください。一旦、私どもはこれで、失礼いたします。』
そう言って青藍は深冬を立たせると、豪紀たちと共にその一角を出ていく。
そして、会場となっている広間を見渡した。
青藍は目的の人物を見つけると、豪紀たちに軽く一礼してから、深冬と睦月を連れて、そちらへ向かう。


『・・・あぁ、怖かった。』
「あはは。どうやら始まったみたいだね。女の戦いが。」
「ははは。今日の漣は気合が入っていたからなぁ。いつも以上に綺麗だが、いつも以上に怖い。」


青藍たちが向かったのは、京楽と浮竹のいる場所だった。
席について一息ついた青藍に、二人は笑いながら声を掛ける。
「笑い事じゃあないでしょう。あれは相当相性悪いですよ。」
睦月が震えるように言う。


『だよねぇ。何事もないといいのだけれど。』
「ふふ。大丈夫さ。だって咲ちゃんだもの。その辺の女性には負けないさ。」
「そうだろうな。ほら、深冬ももう少し力を抜きなさい。漣なら大丈夫だ。」
浮竹はそう言って固まっている深冬の肩を軽くたたく。
「はい・・・。」


『深冬もよく耐えたね。いい子だ。』
青藍は安心させるように頭を撫でる。
「青藍・・・。」
深冬は泣きそうに青藍を見上げた。
『うん。もう大丈夫だよ。落ち着くまでこうしていてあげるから、力を抜いていい。』
言って青藍は深冬の手を取る。


「ははは。そんなに怖かったのか。よく頑張ったなぁ。」
そんな深冬を見て浮竹は朗らかに笑う。
『母上が何も知らないような顔をして、わざわざ相手を煽るようなことを言うから、八重殿の背後に一瞬般若が見えました。』
「はは・・・。そうだったな・・・。」
青藍と睦月はそう言って遠い目をする。


「あはは!流石咲ちゃん。怖いものなしだね。」
『まぁ、そうでしょうね。ここは朽木家ですし、母上の傍には千本桜が居ます。衝立で区切ってあるとはいえ、人目もありますからね。』
「それを狙ってのこの配置なんでしょ?」
京楽はそう言って広間を見渡す。


『あはは。お気付きでしたか。』
「まぁね。ここからは見えないけれど、ちょうど朽木隊長からは、咲ちゃんの姿が見えるようになっているんでしょ?」
『えぇ。母上に何かあれば、父上が飛んでいきます。ちなみに、橙晴から見える位置に茶羅が居ますよ。橙晴から死角になる場所にはいかないように茶羅が上手く動いているようですね。ルキア姉さまは周りに死神の方々が沢山いますし。』


「なるほどな。それで白哉や橙晴は目立つところに居るから狙われにくい。狙われても、彼奴らなら対処できるだろうが。」
『えぇ。そして僕らは、お二人が居るので大丈夫です。』
青藍は楽しげに笑う。


「あはは。僕、何かあったら深冬ちゃんを抱えて逃げる係ね。」
『それは僕の役目です。』
「えぇ。それは狡いなぁ。」
『この状況で婚約者を守らずに僕だけ逃げるわけにはいきませんからね。』


「青藍ばっかり良いとこ取りでいいなぁ。」
京楽は詰まらなさそうに言う。
「京楽さんが深冬を連れていったら、人攫いにしか見えませんからね。」
睦月が冷静に言う。


「ははは!確かにそうだ!」
睦月の言葉に浮竹は楽しげに笑った。
『本当ですよ。一度酒宴から抜け出すために深冬を頼んだら、春水殿、人攫いにしか見えなくて、僕、笛を吹きながら笑いそうになりました。』
「青藍ったら、酷いよねぇ。雪乃ちゃんと二人で僕のこと笑うんだよ。」
『だってものすごくこそこそしているんですよ?』


「はは。想像できるな。女の子を攫う怪しいおじさんだ。」
「浮竹まで。君だっておじさんじゃないの。」
京楽は拗ねたように言う。
『十四郎殿なら、女の子を抱っこするおじさんですもん。』
「まぁ、そうだな。怪しさはなくなるな。」


「全く、皆して浮竹の味方なんだから。」
『あはは。まぁ、相手が女の子の場合は、ですよ。大人の女性なら、春水殿の隣の方が似合います。』
「それはそれで妖しいけどな。」


「ははは。良かったな、京楽。」
「・・・別にいいけどね。」
『ふふ。まぁ、そう拗ねないでくださいよ。それで僕らが助かったのは事実です。ね、深冬?』
青藍に問われて、深冬は頷く。
「囲まれてお酒を呑まされていたので、助かりました。ありがとうございます。」
「あはは。やっぱり深冬ちゃん、可愛いよねぇ。」

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