色彩
■ 25.対面

青藍たちが玄関に着くと、加賀美家の面々が丁度到着したらしい。
八重の姿を見て、深冬は青藍の手を握る力を強める。
それに気が付いた青藍は、安心させるように握り返した。


『・・・ようこそお越しくださいました、加賀美殿、豪紀殿。そちらは?』
青藍がにっこりと微笑むと加賀美の当主もまた微笑んで挨拶を返す。
「こちらが私の妻、八重にございます。」
言われて後ろに居た女が一礼する。


「お初にお目にかかります。八重と申します。」
彼女はそう言って微笑んだ。
その微笑に、青藍は内心苦笑する。
・・・これは多分、かなり母上とは気が合わない。


『八重殿でございましたか。お初にお目にかかります。私が朽木青藍です。』
青藍はそんなことを思いつつも微笑みを崩さない。
「深冬も元気そうで何より。」
八重はそう言って深冬を見る。
微笑んでいるが、その視線は冷たい。


「はい。お久しぶりにございます、当主様。八重様。豪紀様も足を運んでいただき、ありがとうございます。」
その視線を受け止めながら、深冬は一礼した。
『加賀美家の皆様には、特別に、私自ら茶ノ湯を振る舞いましょう。』
「それはそれは。お心遣い痛み入ります。」


『いえ・・・・。では、こちらへ。ご案内いたしましょう。』
そう言って青藍は彼らを連れて、白哉たちが茶を点てている広間に向かう。
その隅に、衝立を点てて、茶を点てるスペースを用意しているのだ。


この人は、貴族の女として教育を受けてきた人なのだろうなぁ。
茶を点てて、もてなしながら、八重の所作や雰囲気を見て、青藍はそんなことを考える。
夫婦の会話からするに、八重殿の方が強いらしい。
これでは加賀美君が大変なわけだ・・・。
青藍はそう思って豪紀に目線を送る。
その視線を受けた豪紀は居心地が悪そうに視線を逸らした。


あはは・・・。
まぁ、そうだよね。
そして、何より問題なのが、深冬が一言も発さないということである。
八重から深冬に声を掛けることもないので、深冬は正座をしたまま、ただそこに居るだけだった。


「結構なお点前で。」
『恐れ入ります。』
言われて、青藍は軽く頭を下げる。


『八重殿には、何度もお会いしたいという旨のご連絡を頂いていたにも関わらず、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。心より、お詫び申し上げます。』
「構いません。お忙しい身ですもの、このように顔を見せて頂けただけで十分にございます。」
『そう言っていただけると助かります。』


八重に微笑まれて、青藍も笑みを返す。
それを見ている豪紀が八重の後ろで苦々しい表情をしているのだが。
僕だってそんな顔をしたいよ・・・。
雪乃の言っていた通りだ。
美人で賢くて、迫力がある。
まぁ、それでも母上の敵ではないけどね・・・。


「ところで・・・私、実は咲夜様にご相談したいことがございますの。少々お時間を頂くことは出来るでしょうか?」
来た・・・。
本当に母上と話しに来たんだ・・・。
『それは構いませんが・・・一体、どういったご相談でしょうか?私でよろしければ承りますが。』


「出来ることならば、咲夜様のご意見を伺いとうございます。」
『そうですか。では・・・睦月。母上をこちらへ。』
「畏まりました。」
青藍に言われて、睦月は一礼すると、静かに歩いていく。


数分後、睦月は咲夜を伴ってやってきた。
「失礼いたします。」
にっこり。
そんな笑みを湛えて咲夜はやってきた。
・・・あぁ、怖い。


『母上。八重殿が、母上とお話をしたいのだそうです。お相手願えますか?』
「もちろん。八重殿は深冬のお母様にございますもの。お断りする理由がございません。私で良ければいくらでもお相手いたしましょう。」
微笑みながらそう言った咲夜に、八重の瞳に一瞬剣呑なものが映る。


あぁ、煽らないでほしいなぁ。
深冬のお母様とか、母上、楽しんでいますよね・・・。
深冬が八重殿を一度もお母様といったことがないということを知っていますよね・・・。


「それは嬉しゅうございます。これは、ご挨拶が遅れました。お初にお目にかかります、咲夜様。加賀美八重と申します。」
剣呑さを一瞬で消して、八重はにっこりと微笑む。
「・・・お初にお目にかかります。私が朽木咲夜にございます。本日はよくお越しくださいました。どうぞ、ごゆるりと、お楽しみくださいませ。」
それに少し詰まらなさそうな瞳をしながらも、咲夜もまたにっこりと微笑んだ。


そんな二人に、青藍と豪紀は息を呑むばかりである。
深冬は未だに微動だにすることがない。
加賀美の当主は、女性陣のやり取りの中に剣呑さを感じることが出来ないのか、暢気ににこにことしている。


・・・はぁ。
もう僕、溜め息しか出ない。
チラリと睦月を見ると、彼は既に悟りを開いたような瞳で、この状況を見ていた。

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