色彩
■ 22.波乱の予感

婚約発表から数か月。
何度も八重からの面会の申し出があったが、青藍は体が空かないことを理由にすべて断っていた。
もちろん白哉にもその話は来ていたが、彼も全て蹴っている。
加賀美の当主から頼まれることもあったが、二人とも相手にはしなかったのである。


その間、青藍と深冬の婚約に関する噂が絶えることはなかった。
その噂には青藍は幼女趣味だとか、この婚約は見合い避けだとか、そんなものも混ざっていた。
中には貴族の集まりの席で、青藍に直接婚約の意図を聞く者もあったが、青藍は曖昧な答えしか返さない。


見方によっては、それらは事実であるが、その手の噂は全て青藍が笑顔で躱す。
あくまで本音を話さない青藍に、周りの者は様々な推測をしつつも、この婚約に関してなにがしかの意図があるのだと、とりあえず傍観することにしたようだった。
そんな折、仕事中の青藍の元へ、豪紀が焦ったように駆け込んできたのだった。


「朽木青藍。少し時間を取ってくれ。話がある。」
豪紀の様子に青藍は首を傾げる。
『加賀美君?どうしたの、そんなに焦って。いつも冷静な君らしくない。』
「・・・面倒なことになった。」
豪紀はそう言って蟀谷を押さえる。


それを見た青藍は、八重のことについてだろうと読み取り、すぐに筆をおいて立ち上がる。
豪紀の立場を考えると、護廷隊の中でしか二人で話すことが出来ないため、いつの間にか彼らの相談は、護廷隊内ですることが日常と化していた。


『わかった。すぐに聞く。橙晴、僕は席を外すよ。』
青藍がいうと、橙晴はいつものことだというように頷く。
「何かあれば伝令神機に連絡を入れましょう。」
『うん。ありがと。・・・じゃあ、行こうか。』
青藍の言葉に二人は連れ立って出ていく。


『・・・で、何かあったのかい?』
移動した二人は周りに人気がないことを確認して、話し始める。
今日は六番隊の応接室だ。
「来月、朽木家で茶会があるな?年に一度の盛大な茶会が。」
『うん。大規模なものだから、色々な貴族や死神の皆さんが来るけど・・・。』


「もちろん、朽木家は全員出席だろ?」
『そうだね。深冬にも出席はしてもらう。』
「ということは、お前の母親も当然顔を見せるんだな?」
『それは・・・そうだけど。流石に朽木家が主催者だから、母上も顔を出さなければならない。』


「・・・それをどこからか聞いたらしい俺の母親が、その茶会に出席すると言い出した。」
豪紀は疲れたように言う。


『それは・・・え?なんで!?』
豪紀の言葉を理解した青藍は目を丸くする。
「お前も朽木隊長も、どちらも俺の母親と顔を合わせるのを断り続けている。とうとう我慢の限界が来たらしい。それで、お前の母親に会うために、その茶会に出席するのだそうだ。」
そう言って豪紀はため息を吐いた。


『・・・。』
思わず青藍は言葉を失くす。
「男どもは皆深冬の味方に付いているとでも思ったのだろう。だから、お前の母親も同じ不満を持っているのではないかと考えた。それで、突然出席すると言い出したんだ。」
『あはは・・・。僕、その場面を想像するだけで憂鬱なのだけれど。』


「だよな・・・。お前の母親は、深冬のことを溺愛しているものな・・・。だが、深冬が居る以上、俺の母親がその茶会に出席すると言えば、朽木家は断ることも出来ないし、なるべく優先して顔を合わせなければならない。」
『そうだよねぇ・・・。僕も流石に一度くらい顔を合わせなくちゃならないし。でも、母上かぁ・・・。』
青藍はそう言って遠い目をする。


「顔を合わせたらどうなるだろうか。」
『うん・・・。とても怖い地獄絵図になりそうだよね。たぶん、そんな話を聞いたら、母上はノリノリで応戦するよ・・・。』
「お前の母親って、大概だよな・・・。」
『あはは・・・。かといって茶羅を代わりに出すわけにもいかない。君と茶羅を揃えるのは何か起こる気がするし。』


「そうだろうな・・・。勝手に婚約が成立したことにされかねない。そして、周りはこちらが本命だと考えるだろう。それを利用して、お前らは離されることだろうな。」
『やっぱりそうだよね。・・・はぁ。どうしようか。溜め息しか出ないのだけれど。』
青藍は疲れたように言う。


「いい加減、俺では止められなくなっている。父親は母親の願いを受け入れてしまう。父親があの人を蔑ろにしたことなんかないのに、何故母親はあれ程深冬を嫌うのか・・・。」
豪紀は項垂れる。

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