色彩
■ 20.願うこと

『・・・それで、この婚約についてなのですが。』
「あぁ。私は反対などせぬ。そなたのことだ。深冬が良いと言ったから、婚約したのだろう?」
『それは、そうなのですが・・・。』
青藍はそう言って俯く。


「?」
そんな青藍に、安曇は首を傾げた。
『・・・深冬を守る、という以外に意図があったとしたら、どうしますか?』
青藍は伺うような視線を安曇に向ける。


「それはそなたが深冬を好いているという話か?」
『・・・はい。』
首を傾げる安曇に、青藍は気まずそうに答えた。
「ほう。漸く自覚したのか。」
そんな青藍に、安曇はけろりと答える。
青藍はそれに目を丸くして、言葉を失った。
それを見て、安曇は楽しげに笑う。


「年寄りの目を欺けると思うたか。無駄に長く生きてはおらぬ。若造の心など、お見通しだ。」
楽しげに言う安曇に青藍は脱力する。
「大体、あれで自覚していない方がおかしいのだ。そなたが深冬に向ける視線は明らかにそう言うものだぞ。」
はっきり言われて、青藍は項垂れる。
顔を赤くして。


『それ、は、皆、気が付くものでしょうか・・・?』
手で顔を覆いながら、青藍は恐る恐る聞く。
「さてな。そなたは隠し事が上手いからな。だが、白哉や咲夜は気が付いていたのではないか?あぁ、あと、雪乃という娘も気が付いているだろうな。あの娘は聡い。」


・・・やっぱり、その辺の人たちは気が付いているんだ。
僕が深冬をどう思っているのか。
『・・・その辺だけしか解らないのなら、それでいいです。見抜かれないとは思っていませんから。』
「ふふ。若いな。」
安曇は顔を赤くした青藍を見て、楽しげに言う。


『・・・そんな僕が、深冬の婚約者なのですよ?まだ、気持ちすら伝えていないのに。安曇様は、それでもいいのですか?』
「構わぬ。そなたは深冬を大切にしてくれるのであろう?」
安曇は微笑む。


『それはもちろん。でも、僕は・・・僕が一番深冬を傷つける気がします。僕がその気になれば、深冬をいくらでも縛ることが出来るのですから。邸に閉じ込めて、僕以外を見ないようにすることだって、出来てしまう・・・。』
苦しげに言う青藍を見て、安曇は苦笑した。


「私は、そなただからいいと思うのだ。そうやって、迷うそなただから、深冬をやってもいいと思うのだよ。」
『え?』
柔らかく言った安曇に、青藍は目を丸くする。


「そなたは、そうやって、迷う。そして、深冬が本当に嫌なことは結局できないだろう。それで自分が苦しむことになっても。本当にそんなことをする奴は、誰にもそんなことは言わずにやってしまう。」
『そう、でしょうか・・・。』
青藍は自信なさげに俯く。


「そうだ。それに、そなたは白哉の子だからな。」
安曇は面白そうに言う。
『?』
「ふふ。あれは独占欲の強い男だ。本来ならば、咲夜を閉じ込めておきたいだろう。咲夜は何処へでも飛んで行ってしまうからな。だが、白哉は絶対にそうはしない。閉じ込めるのは容易いが、それでは咲夜が壊れてしまうことを解っているからだ。」


『でもそれは、母上が必ず帰ってくると、信じているからです。その自信があるからです。僕は、そんな自信が、ありません・・・。』
青藍はポツリと呟く。
「白哉とて自信があるわけではないのだよ。不安もある。一度大切な者を亡くすと、臆病になるものだ。また失くしたら、と、考えると、怖くて仕方がないものだからな。」


『でも、じゃあ、それなら、どうして、父上は・・・。』
「そうありたいと願うからだ。」
『願う?』
首を傾げた青藍を見て、安曇は微笑む。


「願いというものは強い力になるのだよ。そうありたいと願うために、そうあろうと努力が出来る。白哉の場合は、咲夜に笑っていてほしいのだ。たぶん、自由に咲夜らしくあることが白哉の願いなのだ。そして、そんな咲夜が自分を愛してくれることが。」


『だから、父上は、母上を閉じ込められない・・・?』
「そうだ。閉じ込めれば咲夜には愛されないからな。白哉は、自由に飛び回る咲夜の姿が、何よりも好きだ。いつも咲夜には小言を言っているが。」
そういって安曇は苦笑する。


「だからあの男は、文句を言いつつもちゃんと待つのだ。まぁ、たまに追いかけることもあるようだな。あれはあれで、咲夜には丁度いいのだろう。」
『僕に、それが出来るでしょうか・・・。』


「出来る。そなたは何が幸せか、両親を見て解っているはずだ。そういう両親のもとで育ったのだ。自信を持つがいい。自分を信じられないのならば、あの二人を信じればいいのだ。そうすれば、あの二人の子どもである自分も信じられよう。」

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