色彩
■ 17.事情説明

『・・・と、いう訳で、僕と深冬の婚約が決まったんだ。』
第三書庫にて青藍は説明を終える。
もちろん、自分の気持ち云々は除いて、ただ深冬を守るための婚約だとしか話していないのだが。


「そうだったんだ。じゃあ、一か月ぐらい前に深冬ちゃんを連れ出したのは、その話だったの?」
『そうだよ。流石にあそこで話すのはまずいでしょ?』
青藍は苦笑する。
「それはそうだけど、なんか納得いかない。」
キリトはそう言って唇を尖らせる。


『あはは。この話が漏れると、婚約前にごたごたが起こりそうだったんで、黙っていたんだ。』
「ごたごた?」
青藍の言葉に京は首を傾げる。
『うん。実は、加賀美君のお母上である八重殿がね・・・。いろいろと・・・ね。』
青藍は苦笑する。


「色々と?」
『・・・八重殿は深冬が僕のそばに居るのが気に入らないんだ。加賀美君と茶羅を婚約させようとしているから。』
「「「「「えぇ!?」」」」」


『八重殿は深冬の事情を知らないからね。拾い子が朽木家に行くなど許せないのだろう。だから、深冬にお見合いをさせることを強く希望した。その結果、深冬が危険な目に遭ったという訳だ。当然、僕はこれを見逃すわけにはいかない。』

「それじゃあ、加賀美家は婚約に反対したんじゃないの?」
蓮の言葉に、青藍は首を振る。
『まさか。当主と次期当主である加賀美君は、反対はしないさ。彼らは深冬の事情を知っている。加賀美君においては、霊妃との繋がりまで知っている。それを背負えるものはそうはいない。まぁ、僕がそれを背負うものに値するかは別として。』


「加賀美君にも話していたとは驚きだわ。」
『話したというか、話しているうちに気付かれたというか・・・。彼は意外と鋭いんだ。頭も決して悪くない。次期当主としては当然の選択だよ。』
「確かにそうね。それに、朽木家の次期当主と婚約するということは、加賀美家は朽木家の後ろ盾を得ることになる。それは、貴族の中ではとても魅力的な話だわ。深冬の事情を抜きにしても、加賀美家がそんな話を断るはずがない。」


『そうだ。茶羅を貰うよりも、朽木家次期当主と深冬を婚約させた方が、明らかに加賀美の家にとってはいいはずだ。この僕に直接話をすることが出来るのだから。』
「でもそれじゃあ、加賀美の母親は、この婚約に納得してねぇってことだろ?」
『まぁ、そうだね。』
侑李の問いに青藍は軽く頷く。


「ということは、深冬さんのお見合いが出来なくなっただけで、まだ確執があるってことだよね?」
京はよく解らないと言った表情をする。
『うん。でも、深冬がお見合いをして他の家と婚約するよりは、僕の元に居た方が安全なのは確かだ。他の家に居たら、流石に家の中まで詳細に知ることは難しいから。』


「確かにそうだね。他の家にいたのでは、何かがあってからしか青藍は動けないんだ。下手すると、何かあっても、青藍が手を出せない状況になる。」
『その通り。』
「でも、それでは加賀美君のお母さんは納得しない。」
「貴方がその話をするということは、八重様が今後も手を出してくる可能性があると考えているから?」


『うん。その辺は加賀美君と共謀して阻止するつもりではあるけれど、度を越すようなら、何らかの措置が必要になる。僕と深冬の婚約を取り消せないとわかれば、最悪、深冬の命を狙うかもしれない。もしかすると、今だって狙っているかもしれない。まぁ、その辺はちゃんと護衛を付けているから問題ないと思うけれど。』


「そうね。むしろ直接手を出してくれた方がこちらとしては処理しやすい。でも、八重様はきっとそういうタイプではないわ。」
雪乃は確信を持っていう。
『あはは。僕もそんな感じはするよ。まだ顔を見たことはないけれど。』


「何というか、迫力のある方よ。美人だから尚更ね。おそらく聡い方よ。まぁ、少し感情的になりやすいというか、嫉妬深いというか。そんなところもあるけれど。」
雪乃は思い出すように言う。
『そしてどうやら加賀美のご当主はそんな奥方に弱いらしい。だから、事情を知っていながら深冬を見合いに行かせたりしてしまうんだ。八重殿の願いを断るためには深冬の事情を話さなければならないけれど、話したら話したで新たな問題が出てくる。』


「話せば今度は深冬を利用しかねないのね?」
『そのようだよ。加賀美君がそう言っていたからね。本当に、加賀美君は苦労しているよね。』
青藍はそういって苦笑する。


「その上、貴方と板挟みにされているのだから大変ね。深冬との婚約だって、加賀美君がご当主を説得したということでしょう?」
『まぁ、それもあるね。後は父上が若干権力をちらつかせたらしいけど。』
「朽木隊長も、容赦がないのね・・・。」
雪乃の言葉に皆が頷く。


『あはは。この婚約を断っても茶羅は絶対にやらない、とも言ったらしいよ。それじゃあ、どうしたって僕と深冬の婚約に頷くしかない。』
青藍は楽しげに言う。
「・・・加賀美君はその場にいたのよね?」
『そうらしいね。考えるだけでぞっとするよね。』
そういいつつも青藍は笑顔である。

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