色彩
■ 14.欲しいもの

「・・・青藍と、離れるのは嫌だ。だから、青藍がいいなら、それでいい。」
深冬はポツリとそういうと、青藍に寄りかかる。
そんな深冬に青藍は困ったように微笑んだ。
『それは、僕の婚約者になるということ?』
問われて深冬は頷く。


『じゃあ、この話を、進めてしまうよ?本当に、それでいいんだね?』
深冬は再び頷いた。
青藍の意図は、正直よく解らない。
でも、青藍の負担を増やすようなことはしたくないのだ。
そして、この青藍の温かさを、隣に感じていたい。
深冬は内心で呟いて、目を閉じる。


この気持ちが何なのかはわからないが、離れたくないと思う。
私は、青藍のそばに居たい。
こうやって青藍の隣に居ることが、いつの間にか、当たり前になっているのだ・・・。
『・・・解ったよ。それじゃあ、父上たちにも話を通しておく。』
青藍はそう言って、寄りかかってきた深冬を抱きしめる。


暫く無言でそうしていると、深冬は眠ってしまったようだった。
それを見て、青藍は彼女を起こさないように膝の上に抱える。
その寝顔に青藍はくすりと笑みを零した。
何て安心した顔をしているのだろう。
そう思う半面、それだけ信用されていることに、罪悪感が大きくなる。


『ごめんね、深冬・・・。』
そう呟いて青藍は深冬を抱きしめる腕に力を入れる。
でも、きっと深冬は後悔する。
僕はそう優しいやつじゃないんだよ。
欲しいものは何をしてでも手に入れようとするやつなんだ。
君は、そんな僕を許してくれるのだろうか・・・。


でも、今は。
今だけは、君の傍に居させてくれ。
君が僕を嫌うことになっても、今だけは、君は、僕の傍に居たいと思ってくれているのだろう?
僕は、狡い奴だから、それだけで、君を縛るよ。


君が欲しい。
僕がどれほどそう思っているか、君は知らないのだろうね。
加賀美君の言ったとおり、僕は君にとって一番危ない奴だ。
でも、だからと言って、手放すことは出来ない。
『ちゃんと守るから、ここに居てね。君が大きくなったら、伝えるから。』
青藍はそう呟いて、深冬の額に唇を落としたのだった。


『父上。少々お時間、よろしいですか?』
青藍はそう言って白哉の元へ顔を出した。
あの後、眠る深冬を雨乾堂に預けて、青藍は六番隊に戻ってきていた。
「あぁ。入れ。」
白哉に言われて、青藍は隊主室に入る。


その手には湯呑が二つ。
青藍は一つを白哉の机の上に置くと、自分は窓際に立つ。
それを見て、白哉は書類を置き、湯呑を手に取った。
「・・・どうしたのだ?」
いつもと違う静けさを纏った雰囲気に、白哉は青藍を見つめる。


『父上。僕、欲しいものが見つかりました。』
その言葉に、白哉は、決めたのか、と、内心で呟く。
『父上は、清家から聞いているのでしょうね。僕が、深冬をどう思っているか。きっと、僕の変化に清家は気付いたと思うから。』
外を見ながら、青藍は静かに言う。


『でも、父上には、自分から言っておきますね。・・・僕は、深冬が好きです。』
「・・・あぁ。」
『だから、僕は深冬を僕の婚約者にします。』
「そうか。決めたのだな・・・。」
『はい。でも、それを言ったら、深冬を困らせてしまうので、まだ、伝えることはしません。それなのに、婚約だなどと、狡いのは解っています。』


「深冬には?」
『さっき、説明してきました。深冬を守るためには、それが一番いいと。もちろん、それも本音ではありますけど。深冬は、それに頷いてくれました。加賀美君には、正直に僕の気持ちを伝えた上で了承してもらいました。なので、加賀美家から反対されることはないと思います。八重殿がどう動くかが問題ではありますが。』
言って青藍は目を伏せる。


「そうか。」
『・・・僕は、欲しいものを我慢できない子どもの様ですね。でも、たぶん深冬は最初から特別でした。僕は、あの紅色の瞳に、真っ直ぐな強い瞳に惹かれたのだから。相手にどんなに目を逸らされようと、相手を真っ直ぐに見る、あの瞳に。』
「そうだな。あの娘は、強い。」


『はい。僕は、僕の婚約者になるということが、ひいては、僕の妻になるということが、どういうことなのか、解っています。僕の歩く道が、決して明るいものだけではないことも。あの子に、そんな道に進めというのだから、僕は酷いやつですね。』
自嘲気味にそう言った青藍に、白哉は苦笑する。


「それは、私もそうだ。咲夜も緋真も、私の我が儘で朽木家に入れたようなものだ。朽木家に入れれば、私の苦しみを知って、それを背負わせてしまうと解っていたのに。」
『それでも、欲しいと思うのですね・・・。僕は、僕が此処まで一つのものを欲するとは思いませんでした。』


「そうだな。私もそうだった。」
『でも、あの子を苦しめるかもしれないと解っていても、僕を愛することがなくても、一生をかけてあの子を愛すると決めました。』
青藍はそう言って困ったように微笑んだ。

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