色彩
■ 13.傍に居て欲しい

『・・・ふう。ごちそうさまでした。』
お弁当を食べ終えた青藍はそう言って手を合わせると、お茶を啜る。
そして、隣で眠そうにしている深冬をチラリと見た。
先ほど渡したどら焼きを食べ終えて、満足したらしい。
その瞳がぼんやりと風景を見つめている。


・・・可愛いなぁ。
お弁当を食べている間、互いに無言だったので、眠くなってしまったのだろう。
そんな深冬に青藍はくすりと笑みを零す。
それに気が付いたのか、深冬は青藍を見上げた。
青藍が深冬の頭を一撫ですると、深冬は気持ちよさそうに瞳を和らげる。
それを見た青藍は、これから話すことに後ろめたさを感じつつも、本題に入ることにしたのだった。


『ねぇ、深冬。』
深冬の頭を撫でる手を止めて、青藍は空を見上げる。
「何だ?」
『あのね、この間のことがあってから、いろいろ考えたのだけれど。』
「うん。」


『深冬をどうやったら上手く守ることが出来るのかなぁ、とか、どうすれば怖い思いをさせなくて済むのかなぁ、とか考えたんだ。』
青藍は静かに言う。
「青藍はいつも私を守ってくれているだろう?」
青藍の言葉に、深冬は首を傾げる。


『でも・・・この間は怖い思いをさせたし、その前だって、僕のせいで深冬が痛い目に遭った。僕、君にそんな思いをさせるのは、嫌だよ。』
青藍は呟くように言う。
「・・・それは、青藍のせいじゃない。私が上手く出来なかったせいだ。」
そんな青藍に、深冬は反省するように言った。


『違うんだよ。あのお見合いだって、僕のせいなんだよ。』
「お見合い?でも、あれは、当主様が私に行けと・・・。」
そう言って深冬は首を傾げる。


『違うんだ。あのお見合いは、八重殿の強い希望があったからだ。・・・八重殿は、君が僕の近くに居るのが気に入らないらしい。だから、僕と君を引き離すために、君にお見合いをさせた。つまり、僕が君を僕の傍に置いているせいだ・・・。』
青藍は俯いた。
その横顔が悲しげで、深冬は目を丸くする。


『だから僕は、君を僕から遠ざけることも考えたのだけれど・・・。』
そう言われて、深冬は思わず青藍の袖を掴む。
『深冬?』
そんな深冬に、青藍は首を傾げる。


「それは・・・話というのは、私に青藍から離れろという話なのか・・・?」
深冬は俯いて呟くように言う。
その声が泣きそうで、青藍は慌てる。


『違う!違うよ!それも考えたけど、それは出来ない。だって、僕は深冬にそばに居て欲しいもの。だから・・・だから、深冬、僕の婚約者になってくれない?』
その言葉に深冬は驚いたように顔を上げた。
「それは、どういう、事だ・・・?」


『君と僕が婚約すれば、君はお見合いをする必要もないし、僕は君を守ることが出来る。婚約者という立場があれば、この間のようなことは防げるし、君に簡単に手出しは出来なくなる。僕は、何処に居ても君を全力で守ることが出来るんだ。八重殿にだって、手出しはさせないつもりだ。君が大きくなるまでは、君を守るよ。』
青藍は深冬を見つめながら言った。


『もちろん、君が嫌なら断ってくれて構わない。でも、君と僕が婚約することが、一番君を守ることが出来る。君が朽木家に居ることだって公にしても問題がなくなる。』
「嫌では、ない。・・・だが、それは、私が決めていいことではない。」
『加賀美君にはすでに話してある。彼からは了承を貰っているよ。だから、あとは、君がどうするかだ。君が、選んでいい。』


言いながら青藍は内心苦笑する。
僕は本当に嘘つきで、ずるい奴だ。
こういえば、深冬が断らないことを知った上で言っているのだから。


「・・・青藍は、それでもいいのか?」
深冬はそう言って青藍を見上げる。
『いいよ。僕もお見合い写真を見るのには飽きたからね。何処へ行ってもうちの姫はどうですかって言われるのも疲れるし。それに、これなら、深冬と離れなくてもいいから。』
青藍は微笑む。


「私がそれを断ったら、青藍は私と離れるつもりなのだな?」
『まぁ、そうなるかな。君を他の家に預けることになるだろう。漣家か周防家あたりだろうね。そうしないと、八重殿の気が収まらないからね。』
青藍はそう言って苦笑する。
それを見て、深冬は、自分がどうしたいのか、考える。


断れば、私は朽木家を離れる・・・。
あの、温かくて、優しくて、柔かな場所を。
当たり前のように目を合わせて、名前を呼んで、触れ合って。
それが、出来なくなるのか?
何より、青藍が、そばに居なくなるのか?
こうやって二人で過ごすことが出来なくなる?


・・・それは、嫌だ。
そこまで考えて、深冬は内心苦笑した。
それでは、答えなど、もう決まっているではないか・・・。
私は、青藍のそばに居たいのだ。
その青藍が私のそばに居たいと言ってくれているのだ。


それに、青藍の言うことも一理ある。
私の出生の秘密が漏れれば、私を手に入れようと画策する者が増えるだろう。
私に何かあれば、きっと父様が助けてくれるだろうけれど、父様の身はいつでも身軽なわけではない。


父様が動けないとき、父様の代わりに私を守るのは青藍で。
青藍が危険を冒さなければ、私を守れず、そして、霊妃様のことまで露見してしまうかもしれない。
いや、青藍はそうならないために、自分を危険に晒してまで、霊妃様の存在を隠すだろう。
つまり、青藍の傍に居た方が、青藍の危険は減るのだ。
その答えにたどり着いた深冬は、口を開いた。

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