色彩
■ 12.色々な事情

豪紀と別れた青藍は、十三番隊の執務室に居た。
「・・・青藍、邪魔。」
深冬の机の前に陣取って、彼女を眺め続ける青藍に、キリトが呆れたように言った。
始めは深冬がそれを嫌がっていたのだが、それでも眺め続ける青藍に、彼女は諦めたようだった。


『そう?ちゃんと仕事を手伝っているじゃないか。』
青藍はそう言って書類をひらりと見せる。
「深冬ちゃんを見ながら手だけ動いているとか、気持ち悪い。しかも、誤字脱字もないし。」
キリトは怪しいものを見るように言った。


『ちょっと考え事をしていてね。でも、慣れればこの程度、見なくても書けるでしょ?』
それに対して青藍は当然のように言う。
「・・・。」
青藍の言葉に、キリトは胡散臭い顔をしてじとりと青藍に目を向けた。


『あはは。種も仕掛けもありません。正真正銘、僕が自分で今書いたやつだよ。』
そんな視線を向けられつつも、青藍は楽しげに言った。
その間も青藍の手は動いているのだが。
「・・・深冬ちゃん。青藍が邪魔なら、僕が引きずってでも外に捨ててきてあげるよ?」
青藍に言っても無駄だと思ったのか、キリトは深冬に視線を向ける。


「青藍は諦めの悪いやつなので、外に捨ててきてもまた来ると思います。だから、その必要はありません。」
深冬は淡々とそう答える。
『えー?そんなに諦めの悪い奴だと思われているの?』
深冬の言葉に青藍は不満げに言った。


「なので、この仕事が終わったら、私が青藍を連れていきます。これでは皆さんにご迷惑がかかりますから。」
そんな青藍を無視して深冬は言う。
『え、ちょっと、無視なの?酷くない?』
「そう。深冬ちゃん、大変だね。青藍みたいなのがそばに居て。」
「そうですね。でも青藍は竜巻なので仕方ありません。」


「あはは。深冬ちゃんって、青藍のことに関しては諦めが早いよねぇ。」
「抗ったところで巻き込まれますから。」
深冬はそう言ってため息を吐く。
「ふふ。本当に、青藍のこと、よく解っているよ。」
深冬の様子にキリトは面白そうに笑う。


「・・・さて、私の仕事はこれで終わりました。確認お願いします。」
深冬は、無視されて落ち込んでいる青藍から書類を取り上げると、自分で処理した分と合わせてキリトに差し出す。
「うん。お疲れ様。」
キリトは笑いながらそれを受け取る。
彼が書類の確認を始めたのを見て、深冬は青藍に視線を向けた。


「青藍。」
『・・・何さ?さっきは僕のこと無視したくせに。』
青藍は拗ねたように言った。
「それは青藍のせいだ。それより、私に何か用があるのだろう?だからわざわざ私の仕事を手伝ったのだ。」
そう言い当てられて、青藍は苦笑する。
『まぁね。』


「どんな用件だ?」
深冬はそう言って首を傾げる。
『・・・まぁ、とりあえず、キリトに邪魔だと言われてしまったから、場所を変えようか。ちょっと僕とお散歩でもしない?』
青藍はそう言って微笑む。


「それは、いいが・・・。」
『あはは。ちょっと秘密のお話に付き合ってね。』
「・・・青藍、また僕らに隠し事だ。」
青藍の言葉を聞いて、キリトは書類から青藍に視線を移す。
『最近皆鋭くて困ってしまうよ。・・・まぁ、キリトたちにも、そのうち、話すから。僕にも色々と事情があるのさ。』


「・・・青藍は事情が色々とありすぎるんだよ。」
キリトは疑いの目を向ける。
『あはは。まぁ、事実でしょ?』
「そうだけどね・・・。そのくせ、いつの間にか僕らまで巻き込まれているのだから、本当に困るよね。まぁ、後で話してくれるならいいけど。今聞いても絶対に話してはくれないんでしょ?」
諦めたようにキリトは言う。


『あはは。よくお分かりで。』
「僕だっていい加減青藍に慣れてきたからね。でも、ちゃんと後で話は聞くから。」
『うん。皆にはちゃんと話すから、少し待っていてくれ。』
「絶対だよ?」
『もちろん。・・・じゃあ、深冬を借りていくよ。』


青藍が深冬とやってきたのは、十三番隊の敷地内にある、大きな桜の木の下である。
まだ蕾すら付いていない木の枝が、風に吹かれて揺れるだけだ。
晴れた空の下、青藍は何処からか敷物を取り出してその桜の木の下に敷くと、またもや何処からかお弁当と水筒を取り出した。
用意が終わると、青藍は敷物の上に座り込む。
そして、深冬にも座るように勧めた。


『深冬、お昼食べた?僕、まだなんだよね。昼休みに食べ損ねちゃって。』
「私は食べた。」
『そう。じゃあ、とりあえず、お茶でも飲んでよ。あ、お菓子もあるよ。』
青藍はそう言って愉しげに袖の中からどら焼きを取り出した。
「ありがとう。」
深冬はそれを受けとって小さく微笑む。
それを見て青藍はお弁当を食べ始めたのだった。

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