色彩
■ 9.たった一つの我が儘

「・・・お前、本気、なのか?」
『うん。まぁ、深冬にはまだ何も言っていないし、暫く伝えるつもりもない。それなのに婚約者にしてしまおうだなんて、深冬を縛るようで、本当に自分勝手なのだけれど、でも、僕は深冬が欲しい。』
青藍は豪紀を真っ直ぐに見つめながら言う。


『深冬を守るためといえば、深冬は頷いてくれるだろう。それを利用しようだなんて、僕は狡い奴だ。そんなことは解っている。でも、深冬は他とは違う。僕が、自分から欲しいと思うのは、深冬だけだ。それに気が付いて、僕は父上の気持ちが少しわかったよ。欲しいと思ってしまったら、もう、それを手放せない・・・。無茶をしてでも、手に入れてしまいたいと、思ってしまう・・・。ただそれだけが、欲しい。』
青藍はそう言って俯く。


『僕は、朽木家の次期当主だ。いずれ、父上に代わって朽木家の当主となる。僕が朽木家を背負っていく。母上も、深冬も、漣家の力も、全部守る。その覚悟は決めてある。でも、僕は、僕自身化け物でもあって。それはとても重くて、僕はたまに心が折れそうになる。本当は、怖くて仕方がないんだ。』
青藍はポツリポツリと本音を零す。


『それなのに、僕は色々なものに絡め取られて動くことも出来なくなっていく。当然だ。僕が背負うものはそれほど大きなものなのだから。・・・だから、ただ一つだけ、決めたことがある。愛する者が出来たとき、僕はその手を掴むと決めた。それが、僕の一生でたった一つ許される、我が儘なんだ・・・。僕が望んでいいのは、それだけだ。他には何も望まない。それだけであらゆるものを引き受けよう。どんなに暗く、険しく、終わりの見えない道でも歩いて行く。たった一つの光だけで。』


この男は、自分が何を言っているのか、解った上で、それでも深冬を手に入れようとするのか。
いや、それしか、欲しいといえないのだ。
この男の孤独が、それだけ深いのか。
朽木家に生まれ、あれだけの才能が有りながら。


お前のいる場所はそれほど暗いのか。
お前はそれほど大きなものを背負っているのか。
それを隠して、お前は今まで笑っていたのか。
これから先も、お前はそんなに孤独なのか。
そのたった一つの我が儘を支えにして、その孤独の道を進んでいくのか。
そんな、重い覚悟を、していたのか・・・。


『だからね、僕は深冬を幸せには出来ないかもしれない。僕のせいで不幸にする可能性だってある。僕の持つ化け物が、そうしてしまうかもしれない。僕もあの時の母上のようになってしまうかもしれない・・・。』
そう言って青藍は小さく震えたようだった。
『でも、そばに居て欲しい。そしてできれば、父上と母上のように互いに互いを支え合って、二人で歩いていきたい。』
呟くように青藍は言う。


『僕は一人では孤独に呑まれてしまう。これから味わうであろう苦悩を乗り越えられない。父上でさえ、その苦悩に、朽木家に生まれたことを恨みそうになると、言っていた・・・。この先僕も自分が生まれた場所を恨みそうになるだろう。自分自身を恨むだろう。でも、大切なものが一つあるだけで、僕は、きっと、立ち止まらずに、前に進めるんだ・・・。』


「お前にとって、それが、深冬なんだな?」
豪紀の問いに、青藍は顔を上げる。
『うん。』
「間違いなく?」
『うん。だから、深冬を婚約者にしてしまったら、僕は深冬を僕から逃がしてはあげられない。』
青藍は泣きそうに言った。


「・・・それでも、欲しいのか。」
それを見て、豪紀は言葉を零すように言った。
『欲しい。君は、こんな最低な僕に深冬を渡すのは嫌だろうけれど、僕は君が反対しても、加賀美家が深冬を渡さないと言い切っても、どんな手を使ってでも、深冬を手に入れるよ。』


「・・・なんだよ、それ。お前、すごく重い奴だろ。それを深冬に背負わせるのかよ。お前が一番深冬にとって危険な奴だ・・・。」
豪紀はそう言って額に手を当てる。
『うん。自覚はある。でも、どうしようもない。こんな僕を深冬が知ったら、嫌われるだろうなぁ。』
青藍は自嘲するように笑う。


「でも、離れる気はもうないんだろ?」
『そうだね。深冬が婚約を受け入れたら、もう、離れない。離れさせない。』
「俺が駄目だと言っても、深冬を攫って行くんだろ?」
『うん。加賀美家を潰してでも、深冬を攫いに行く。』

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