色彩
■ 7.相談事

それから一週間ほど後。
『加賀美くーん!』
そんな声とともに、青藍が五番隊執務室に姿を現した。
それを見て、豪紀はげんなりとした顔をする。


『やぁ、今日も素敵な嫌な顔だね。別にいいけどね。・・・で、相談があるから、その仕事さっさと終わらして、ちょっとお出かけしよう。』
そう言って青藍は何処からか椅子と筆を取り出して、豪紀の机にある書類を捌きだす。
「は?」


『ほらほら、君も手を動かして。僕も君も暇じゃない上に、君はわざわざ休日に僕の顔なんて見たくないんでしょ?だから、君と二人で話せるのは仕事中だけってことになる。さぁ、早く、仕事に取り掛かりたまえ。』
言いながら、青藍は筆を動かす。


「お前、自分の仕事は?」
豪紀は呆れつつも筆を動かし始める。
『今日はもう僕の分は終わらせてきました。全く、君に会うために仕事を早く片付けるなんて、僕、偉くない?』
「いや、そのせいで、俺はお前に迷惑をかけられているわけだが。」
『君、深冬と同じこと言うよね・・・。』


「深冬にも言われたのか。」
『僕、そんなに迷惑かなぁ。』
「基本的に迷惑な奴だ。・・・で、何の用だ?」
『相談があるって言ったでしょ?』
「何だよ、その相談って。」
『んー?・・・ふふふ。』


「ふざけた内容じゃないだろうな?」
『酷いなぁ。僕はいつも真剣じゃないか。』
「嘘つくなよ。」
『今だってこんなに真剣じゃないか!』
「どこがだよ・・・。」


『真剣に筆を動かしているじゃないか。ほら、こんなに字が綺麗。』
青藍は得意げに書き上げた書類を見せる。
「・・・はぁ。」
『え、酷い。見てくれさえしないの。』
「五月蝿い。黙って片付けろ。」


『仕事を手伝っているのは僕なのに。』
「俺はお前のために仕事を早く終わらせようとしているだろう。」
『あはは。加賀美君、最近諦めが早くなったよねぇ。』
「お前が馬鹿な奴だと気が付いたからな。」
楽しげな青藍に、豪紀は諦めたように言う。


『うわ。暴言吐かれた。僕傷つくなぁ。』
「事実だろう。馬鹿を相手に気を張るだけ無駄だ。」
『・・・別にいいけどね。さて、終わりそうだ。加賀美君、今日、任務とかないよね?』
「ない。この書類が終われば、今日は待機だけだ。」


『よし。終わった。そっちは?』
「もう終わる。」
『流石加賀美君。仕事が早くて助かるよ。』
「お前に言われると腹が立つ。」
そんなことを言い合いながら、二人は筆をおいた。


「・・・貴方たち、本当に仲良しなのね。青藍様が一方的に付きまとっているのかと思っていたけど。」
それを見ていたのか、玲奈が呆れたように言った。
『あはは。玲奈さん、何気に酷いですよね。』
「蓮よりはましよ。蓮ったら、噂を聞いた時、笑いすぎて泣いていたんだから。」


『・・・酷い。想像できるから余計酷い。』
「六席、勘違いしないでください。俺はこいつが嫌いです。」
「そうなの?その割には息ピッタリだったけれど。」
『加賀美君ってば照れ隠ししちゃって。』
青藍がからかうように言うと、豪紀は本当に嫌な顔をした。


「・・・お前の相談聞くの、断ってやろうか?」
『あはは・・・。それは、駄目だ。ごめんなさい。調子に乗りました。』
「はぁ。」
豪紀の深いため息に、玲奈は苦笑する。


「・・・あれ?青藍君?何をしているの?」
『あ、桃さん。お久しぶりです。ちょっと、加賀美君を借りるためにお仕事の手伝いを。これ、今日の加賀美君のお仕事です。』
青藍はそう言って書き終えた書類の束を差し出す。
「え、それ、もう終わったの?」
それを見て、桃は目を丸くした。


『えぇ。ですので、加賀美君を借りていきますね。加賀美君に用があるなら、伝令神機にでもかけてください。』
「仕事が終わっているならいいけど・・・。」
『ふふ。ありがとうございます。これ、琥珀庵のお饅頭です。皆さんで食べてくださいね。』


青藍はまたもやどこからか饅頭の箱を取り出した。
いつか安曇が一人で消費した饅頭である。
「わぁ、ありがとう、青藍君。これ、美味しいよね。」
『ふふふ。それは良かったです。』

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